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「……瞭さん、迷惑かけてすみません」
小さな声で彼の背中に呼びかけると、瞭さんは振り向きはせずに言った。
「……仕方ない。慧がうるせーから」
“本当は助けたくなんてない”というふうに聞こえて、わかっていても少しだけ胸が痛かった。
「あのさ、やめてくんない?敬語。“さん”も。気持ち悪いから」
気持ち悪い……。更に胸がぐりぐりと抉られる。
「じゃあ……瞭くん?」
「いや待って!それもなんかムズムズする!」
最早何が正解なのかわからずに、これ以上傷つきたくなくて黙った。
だけどこちらに向いた彼は、想像していた様子とは違い、顔を赤らめ少年の目をしていたので、拍子抜けするのと同時にホッとしたのだった。
「……瞭でいい」
やっぱり兄弟だ。彼は慧さんと似ていて、とても不思議な人。そして悪い人ではないからこそ、苦しめてしまうことがつらいんだ。
「瞭、困らせてごめんね」
「あ、謝んなよ!しつこい!」
人のことをあんなに「恥ずかしい奴」とバカにしていたくせに、真っ赤になっている瞭。憎めなくて、ふっと噴き出してしまった。
「……ありがとう、瞭」
彼はまたムッとして、すたすたと先に歩き出してしまった。
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