【瞭】

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「ほら、言ってるそばから!」  女子の一人が嬉々とした声を上げて視線を向けた先に、瞭が渡り廊下を颯爽と歩いているのが見えた。  その側にいた女子達も、悲鳴に似た歓声を上げる。  ……まさか、瞭がこんなに人気の男の子だったなんて。  改めてよく見ると、確かに慧さんの面影を感じる端正な顔立ちだ。  不意に瞭は、その鋭い眼光をこちらに向けた。  慧さんより荒々しく、触れるとジリジリと焼けてしまうような、そんな熱を纏っている彼。  高岡さん達は甲高い声を上げて手を振った。瞭は私達に向かって、「何見てんだよ」と言うように睨みつける。  それなのに皆、再び嬉しそうに騒ぎ出すので、私は呆気にとられるしかなかった。 「森野くん、あの有名な慧さんの弟なんでしょう?」 「現役大学生アーティスト!この前雑誌にのってたんだよ!」 「お兄さんもかなりのイケメンだよねえ」  皆があまりにもうっとりとしているので、圧倒されながら「うん」と言うので精一杯だった。  だけどあんなに麗しい兄弟なら、こうやって噂されるのも仕方ないとも思う。 「ねえ、宮沢さん!二人を紹介してくれない!?」  高岡さんの言葉に目が点になる。 「え!?私!?」 「だって親戚で、確か家も近所なんでしょ?」 「そ、そうだけど……」  一緒に住んでいることがバレたらどうなってしまうのだろうと、一瞬気が滅入ってしまった。 「ね!お願い!森野くん、無口であんまり話してくれないんだよねー」 「私、お兄さん派!」 「あたしは瞭くん!」  瞭が無愛想で無口な理由が、なんとなくわかってしまった。  こんなふうに毎日騒がれていたら、辟易してしまうだろう。 「あ、あの……ごめんなさい。そういうことは本人に確認してからでないと……」  苦笑して謝ると、彼女達の顔が急に真顔に変化した。その人形のような表情におののいて、冷や汗がじわりと滲んでいくのを感じる。 「……なんか、宮沢さんって融通利かない人だね」 「……使えなーい」  高岡さんの言葉に、他の女子達もくすくすと笑い出した。
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