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次の日も、黙って歩く瞭を追いかけながらの登校。
これ以上迷惑かけるのも気が引けて、靴紐が緩んだことを機会に「先に行っていいよ」と促した。
しかし彼は、先に行くことはせずにじっとしゃがんだ私のことを見ている。
「ホントに大丈夫だから、先に行って」
こういう時に限ってうまく結べない。待たれていると思うと余計に焦って手が震える。
「ったく」
呆れたような瞭の声が、耳のすぐ近くで響いた。
「お前不器用すぎ。かしてみろ」
瞭は目の前で同じようにしゃがむと、私の靴紐を結び始める。
「り、瞭!大丈夫だから!子供じゃないんだし」
「うるせー、俺は早く行きたいんだ」
「だから先に……」
言ってるうちに瞭はまた立ち上がった。
足元を見ると、恐ろしいまでにシンメトリーな蝶々結び。
彼は慧さん同様、手先が器用なんだということがうかがい知れる。
「……ありがとう」
男の子に靴紐を結んでもらうなんて。
顔が熱くなりながら立ち上がると、瞭の背中を見ながらまた歩き出した。
なんだろう。この胸が張り裂けそうになる心地は。
慧さんの時とはまた違う、少しだけワクワクするような胸の高鳴りに戸惑う。
「おはよう!森野くん!」
学校に着いて女子達から挨拶をされても、にこりともしない瞭。
小さく「おう」と言うだけで、その場に絶叫が響き渡る。
「……瞭、モテるんだね」
昇降口でそんなことを口走ると、彼はあからさまに赤面した。
「はぁ!?ちげーし!あいつら皆、慧狙ってんだよ!」
「そ、そんなことないと思うけど」
自分自身が好かれているってこと、自覚がないんだな。
それがなんだか愛らしく思って、顔が緩んでしまうと、また瞭は怒った。
「みーやざーわさーん!」
そんな瞭の背後から顔を出した男子二人。
確か同じクラスの人達だ。
「おはよ!森野も。教室まで一緒に行こー!」
「よろしくねん!」
クラスの人達に、二日目も気さくに話しかけてもらえたことに安堵して、二つ返事で彼らについて行くと。
「……ちょっと待て」
瞭は男子達と私の間に勢いよく入り込み、鬼の形相で彼らを睨み付けた。
「な、なんだよ森野」
「顔こえーよ」
瞭は腕を組みながら言った。
「こいつに話しかける時は、俺の許可をとれ」
「はあ!?」
瞭の突拍子もない言葉に、男子達は困惑した顔で固まっている。
もちろんそれは私も同じで。
「行くぞ」
そう言って腕を引かれた瞬間、今度は廊下中に女子の悲鳴が響く。
「ちょっと、離して!瞭!」
なんでこんなこと、と問う前に彼は言った。
「……慧に言われてんだよ。お前に変な虫がつかないように守れって」
またもや迷惑そうな声に、ドキドキと激しく揺さぶられていた心が急に冷えていくのがわかった。
彼のこの行動によって、学校生活が余計ややこしくなっていくとは、その時の私は思いもしなかったんだ。
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