【瞭】

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 それからというもの、本格的に私は学校内で孤立していった。  正確に言うと、独りぼっちではない。  皆が私から離れれば離れていくほど、瞭が私の側にいてくれた。だけど皮肉なことに、そうすると余計皆が離れていく。 「瞭、もう本当に、私のことは放っておいていいから」  誰もいない、屋上へと続く階段の踊り場で、一人お弁当を食べている時だった。  彼はわざわざ探し回ってくれたのだろうか、少し息を切らしながら私の元に現れ、隣にドスッと座ると同じようにお弁当を広げる。  私のより一回り大きいお弁当箱。何も言わずに蓋を開けると、瞭は信さん特製の卵焼きを頬張った。  一緒にお弁当を食べてくれるのは有難いけど、正直言って虚しい。 「お願いだから、もう私に構わないで」  そんなことを言ってしまったのは、瞭が側にいると孤立してしまうからではなくて。  慧さんの言いつけで、嫌々側に居てくれるという事実が悲しかったから。 「大丈夫。慧さんには、ちゃんと瞭は一緒にいてくれてるって言っておくから。だから……」 「……そのカツみたいなやつ、俺の弁当には入ってないんだけど」 「え?」  私のお弁当に入っていた、大葉とチーズのミルフィーユカツを指していた。 「なんだよ、アイツ。ふざけんな。差別しやがって」 「……食べる?」 「おう」  瞭は躊躇なく私のカツを取ると、すぐに口に運んだ。  そして、「代わりにこれな」と言って自分のお弁当から取ったブロッコリーを、カツの旅立った跡地に置いた。 「……ずるっ!」  くすっと瞭が笑う。まんまと話をそらされてしまった。 「……悪かったよ」  全て平らげてペットボトルのお茶を豪快に飲んだ後、瞭は言った。 「俺のせいだろ?ハブられてんの」 「いや、そんなこと……」  そんなことあるから、なんて返していいかわからない。 「慧の言う通りだよ。俺は女の扱いがわかんねえ。だから、……嫌な思いさせて……ごめん」  驚いてしまった。  瞭は、こんなに素直に謝ったり、気遣いの言葉をかけられる人なんだ。  本当は、とても柔らかくて、繊細な心を持っているんだ。  ふと、“森野さんの手紙”を思い出し、まともに彼の顔を見れなくなってしまった。  おかしな感動と切なさが、心の中に溢れだして自分ではどうすることもできない。  それを必死に隠そうと、私は笑った。 「……ありがとう。大丈夫だよ。私はまだ諦めてないから」 「なんだよそれ」  途端に彼は呆気にとられたような顔をする。 「まだ始まったばっかりだし。皆のこと、ちゃんと知れてないうちから諦めない。私のことも、もっと知ってもらいたいし」 「バカかよ。もうあいつらの人となりはわかっただろ?ろくな奴がいねーよ」 「それはどうかな。たった数日で、その人の本当の姿を理解できるなんて思えない。これから時間をかけて、ゆっくりわかっていって、私のこともわかってもらえて、……一人くらいは気が合う人がいたらいいな、なんて思う」  瞭は私の話を笑った。 「かなり気が長いやつだな」 「そうでしょ?」  私もつられて笑った。 「それに今やっと、本当の瞭がわかった気がする」  目の前の男の子は少し頬を赤らめながら、お兄さんそっくりの美しい瞳を揺らしていた。  
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