153人が本棚に入れています
本棚に追加
「吉池さん、おはよう」
毎日のように挨拶をしていたら、少しだけ頷いてくれるようになった彼女。
何故かはわからないけど、吉池さんのことがすごく気になるんだ。
美人だし、どうやら成績も優秀らしいし、非の打ち所がないのに、何故いつも自信なさげに俯いて、誰とも話さないんだろう。
今日も朝から熱心に本を読んでいる隣で、私も鞄から同じカバーの本を取り出した。
「私も持ってきた!これは王様と魔法の扉!」
得意気に見せつけた本を、彼女はじっと見ている。
「この王様、ちょっと性格悪いけど憎めないよね!」
まるで……と思わず左隣を一瞥すると、彼は眉間に皺をよせている。
「あ?喧嘩売ってる?」
「違う、別に瞭のことを言ってたんじゃ」
「いやぜってー思ってたっしょ!でもそいつ、めっちゃ強えから!頭もいい!」
「瞭もこの本好きなの!?」
意外すぎて目を見開いてしまった。そして驚いたのは隣の吉池さんもびっくりした表情をしていること。
「は!?悪い!?」
「悪くないよ。ただ、こんな夢のあるファンタジー読みそうにないって……」
「やっぱ喧嘩売ってる!?」
「う、売ってない!ね、吉池さん」
あまりの剣幕に圧倒されて吉池さんに助けを求める。
しかし彼女は、私から目をそらして俯いてしまった。
突然ぷすっと空気が漏れる音と共に、吉池さんの肩が震え始める。
「吉池さん!?」
……もしかして、吉池さん笑ってる?
顔を歪ませながら堪えきれないというように震えている彼女が可愛らしくて、びっくりするくらいの喜びで胸がいっぱいになる。
「……どうした?」
固まっていた私の肩をつっつく瞭。
吉池さんの新たな一面を見れたのも、瞭のおかげだ。
「ありがとう」
涙目で瞭に微笑むと、今度は瞭が目を見開いて固まった。
「あの……」
ふいに振り向いた前の席の女子。
「……その本、私も好き」
初めてちゃんと話しかけてもらえた。
「そうなの!?面白いよね!吉池さんと森野くんも好きらしいよ!」
「俺も入れんな」
瞭のツッコミに、前の席の女子も笑う。
「なになに。森野、本好きなの?」
いつの間にか男子達も瞭の周りに集まってきた。
「漫画も読む?ゼロピース読んでる?」
「は!?全巻持ってるし!」
すぐむきになる瞭が面白い。男子達も、そんな彼を見て笑っている。
「なんだよ、普通の奴じゃん」
「普通の奴ってなんだ」
「なぁ、今度53巻貸して」
「嫌だ!」
「モリリン頼むよ」
「モリリン!?」
男子達とのやり取りに、クラスの皆は少し驚いているようだった。
瞭もまた、誰ともつるまずに独りでいることが多かったから、こうやってたくさん話している場面はレアなんだと思う。
私は私で、前の席の女子と吉池さんと、一緒になって本を読み始める。
少しだけクラスの人と打ち解けられた気がして、嬉しくて。
心の中で王様と瞭にお礼を言いながら、密かに顔を緩めていた。
最初のコメントを投稿しよう!