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瞭はその夜、夕食時にも姿を見せずにずっと部屋に籠っていた。
どうしても気になって、慧さんと信さんが来月に開く個展の準備をしている隙におにぎりを作った。
おかかと梅干し、ひとつずつ。それらを手に、私は彼の部屋の扉を叩いた。
最初のノックは無反応。
今度は恐る恐る「瞭?」と声をかけてみるけれど、やっぱり返事はない。
諦めてドアノブの所におにぎりが入った巾着を下げていると、突然ドアは開いた。
「……何?」
案の定瞭は、無愛想、いや、無表情と言った方が的確かもしれない。力なく私を見つめた。
「ごめん瞭。……体調悪いの?」
「ちげー。平気」
それでも律儀に返事をしてくれたのが嬉しくて、巾着を差し出した。
「お腹空いてない?おにぎり作った。よかったら食べて」
瞭は黙って、じっと私を見ている。
眼差しに囚われてしまいそうな不安を感じ、思わず視線をそらした。
その拍子に目に入ってしまった彼の部屋。
想像していたよりもきちんと整理整頓されていて、だけど映画のポスターやプラモデルなどが飾られているのが、男の子を感じさせる。
そして、慧さんのものと同じイーゼルに、画用紙が置いてあるのが見えた。
「瞭も絵を描くんだね!」
どうしてか感動が込み上げる私とは反して、彼は見つかってしまったと言わんばかりに、ぎくりと顔を青ざめた。
____「じゃあこれだけ少し描き直してみるよ」
「ええ、また違ったアプローチができるかもしれません」
慧さん達が階段を上りながら話している声が聞こえてきて、もっと焦り出す瞭。
突然私の腕を思いきり引っ張ると、そのまま部屋に招き入れドアを閉めた。
「おい!瞭!ドア壊れる!」
扉越しに聞こえる慧さんの怒号に、瞭は「わかったよ」と素直に非を認めながら、その大きな手で私の口を塞いだ。
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