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「おい」
放課後、瞭に捕まらないうちに帰ろうと急いで支度していたのに無駄だった。
気づいたら彼は私の背後に佇み、気まずそうにこちらを見ている。
「ごめん、私用事あるから」
用事なんてあるはずがないのは彼が一番よくわかっていた。
一緒にどこかへ行く友達も、待っている家族もいない。今更アンナ園に帰っても、厄介者になるだけ。
結局今の私には、あのおぞましいほどに優しく愛に満ち溢れた、森の中の館しかないのだ。
罪、罰、償い、そんな白々しい言葉で塗り固められた関係しか、私には残されていない。
無条件で私を受け入れてくれる場所は、世界中どこを探したってもうどこにも存在しないのだ。
ぎゅっと目を瞑り涙が出そうになるのを堪えた。
力強く掴まれた腕も、今度こそ振り払い私は勢いよく駆け出した。
帰りたくない。森野家に来てから、そう思うことは初めてだった。
逃げこむようにして誰もいない中庭に辿り着いた私は、初日に皆でお弁当を食べたベンチに腰かけ項垂れる。
寂しい、悲しい、虚しい。
今までないがしろにしていた感情が、一気に仕返しに来たように私を打ちのめした。
「……宮沢さん」
追い討ちをかけるような声。振り返った先に、高岡さん達グループがじっとこちらを見下ろしていた。
もう何もかもがどうでもよくなり、諦めたように彼女達を見つめ返す。
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