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「宮沢さん、あのさ……」
「やめて!」
聞き覚えのない、透き通るような高い声が風のように耳に伝った。
気づくとショートヘアの女の子が、私と高岡さん達の間に立ちはだかり、まるで私を守るようにして腕を広げている。
よく見ると、その腕は小刻みに震えているのがわかった。
「吉池さん!?」
初めて吉池さんの声を聞くことができた。
彼女は私の為に声を振り絞ってくれたのだ。
じわりと緩んだ涙腺から、涙が静かに滲んだ。
高岡さん達は、困ったように苦笑した。
「別に、意地悪しようとしてるんじゃないし」
「そうだよ。……謝りたかっただけ」
驚いて固まる私達を、高岡さんは真っ直ぐに見ている。
「昨日は酷いことしてごめんなさい」
「高岡さん……」
深々と頭を下げる彼女達に、更に困惑するしかなかった。
「私達、あなたが森野くんを独り占めする、嫌な女だと思った。……思いたかった。だって皆、森野くんと仲良くなりたくて仕方なかったの」
心細そうに話す高岡さんは、いつもより幼く見え、本当の彼女を見た気がした。
「だけど宮沢さんも、私達と仲良くなりたくて、気長に向き合おうとしてくれたことわかったから。昨日、森野くんが言ってた」
まさか。あの無愛想で口下手な瞭が、そんなことを言ってくれていたなんて。
「森野くんも、慧さんと同じ、宮沢さんのこと大切な家族だと思ってるんだって」
「そんな……」
彼の心に触れられた喜びもつかの間、再び耳を疑うような事実が高岡さんの口から告げられた。
「森野くん達、あんなことがあったから余計に親戚のあなたのことが大事なんだと思う」
「あんなことって……」
「森野くんのご両親、二人とも自殺したんだよ」
瞬く間に全身に鳥肌が立った。
彼女の言葉が鋭い刃物のように私の耳を突き刺す。
「ちょっと、そんな話やめなよ」
グループの女子が高岡さんを制すと、彼女はハッとしたように「ごめん」と謝る。
高岡さん達は気まずそうに「じゃあね」と言うと、言い逃げのように私達を置いて去って行ってしまった。
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