【紗良】

2/7
前へ
/55ページ
次へ
 “魔女狩り”  その言葉に戦慄が走り身体がすくんでしまう私の腕を、信さんが勢いよく掴んだ。 「……行きましょう」  そう強く手を引かれ、二人で館から飛び出す。  どれだけ走ったのだろう、気づけばそこは森の中で、すっかり日が暮れた辺りは深い闇に包まれていた。 「待って下さい!信さん、私は」 「……やっとわかった。何故あなたがここに来たのか」  信さんは立ち止まると、両手で私の腕を掴んだ。 「逃げて下さい!二人はあなたを傷つけようとしている」  闇の中でも、彼の必死な表情はわかった。 「アンナ園に戻った方がいい。僕が送るから」  彼の提案に、はっきりと首を横に振った。  私はきちんと裁かれなければならない。  今はいない母に代わって、二人の痛みを受け止めなければならない。 「いいんです。ちゃんと、二人と話さないと……」  例えそれが、背筋の凍るような結果だったとしても。   「紗良ちゃん!」  私は再び信さんの手を振りほどくと、今来た道を引き返し走り出した。  だけど暗闇の森は迷路のようで、すぐに道に迷ってしまう。  何も見えない。くしゃりくしゃりと、枯れ葉を踏む音だけが響く。 「紗良ちゃん!そっちは!」  追いかけてきた信さんの叫び声に気づいた時には遅かった。  見えなかった傾斜に足元が滑り、グラッと身体が宙に浮いたような感覚に陥る。 「……紗良っ!」  耳元に感じた必死な声と、全身に伝う体温に驚いた。そのままその温もりと共に、斜面を転がり落ちていく。 「紗良ちゃん!!大丈夫!?」  頭上から信さんの声がする。  どうやら小さな窪みのような場所に滑落してしまったみたいだ。  全く痛くない。  だって私を、抱き留めるように守ってくれた人がいたから。 「……瞭!」  慌てて起き上がると、仰向けで私の下敷きになっていた瞭が、闇の中で睨みつけているのがわかった。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

149人が本棚に入れています
本棚に追加