誕生日にはお茶会を

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「……変じゃないかな?」  誕生日当日。姿見の前で自分の姿を確認したら、今更ながら不安になってきた。  ミントグリーンのワンピースは子供っぽい?  森野さん、私を見てがっかりしないだろうか。  少しでも大人っぽく見せたくて、結んであったポニーテールをほどいた。 「紗良さん、森野さんご到着されましたよー」  シスターの呼びかけに、一瞬どきんと胸を弾ませると、深呼吸をして部屋を出た。  ついにこの時が来たんだ。  ずっとどんな方か気になっていた森野さん。  想像上の森野さんは、ピシッとスーツを着こなした、紳士的な大人。余裕があって、誠実で、品があって。  なんて、勝手な森野さん像を押し付けてはダメだ。  ぶんぶんと顔を横に振った後、両手で思い切り頬を叩く。  ……どんな森野さんでも、きっと素敵な人だ。例え太っていても、ちょっと髪の毛が薄くても。  だって彼は、私の恩人、あしながおじさんだ。  玄関は養護の先生や子供達で溢れていて騒々しく、思わず固唾を飲み込んだ。 ____いよいよ、面会の時。 「お待たせしました。こちらが、宮沢紗良でございます」  シスターが深々とお辞儀するのと一緒に、私も慌てて頭を下げる。 「は、初めまして!紗良です!森野さん、いつもご支援本当にありがとうございます」  ふわりと、どこかでかいだことのあるような懐かしい匂いが鼻をくすぐった。  なんの匂いかはわからない。温もりのある木のような、どこか安心する優しい匂いだ。 「……会いたかったよ、紗良」  身体の芯に響くような低い声にドキッとする。  やっぱり森野さんは素敵な男性なんだ。  恐る恐る顔を上げた先で微笑んでいたのは、 「森野さん……!?」  想像していたよりもだいぶ若い、茶色い髪の青年だった。  スーツではなく、シンプルな白のティーシャツとベージュのパンツ。  それでも目を奪われるくらいの、美しく気品のようなものを感じさせる人だ。  にっこりと柔らかい微笑みを浮かべる彼に、言葉を失ってしまう。  この人が、森野さん。  イメージとは違うけれど、やっぱり素敵な人だ。  嬉しくて嬉しくて、バカみたいに何度も頭を下げる。 「お会いできて光栄です!ずっと素敵なお手紙をありがとうございました!」  しかし森野さんは、次の瞬間、驚くべきことを口にするのだった。 「ううん。……手紙を書いてたのは俺じゃないんだ」 「……………………はい?」  彼が目配せする方向を見て初めて、その存在に気づいた。  森野さんの隣で、腕を組みながら思い切り私を睨み付けているもう一人の青年。  森野さんよりは年下に見える。  黒髪、黒いティーシャツ、黒のパンツ。  こちらの彼はどこまでも黒い。 「俺は森野(さとし)。そんでこっちは弟の(りょう)。手紙を書いてたのは瞭の方」  森野さんの言葉がしばらく理解できないまま、ひたすら睨み付けてくる彼を唖然と見つめた。  
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