149人が本棚に入れています
本棚に追加
月明かりに照らされながら、私達は再び庭のウッドテーブルに集まった。
それはどこか儀式めいていて、緊張感は募るばかり。
「じゃあ、俺から話そうか」
私の向かいの席の慧さんが、一番最初に口を開いた。
「紗良をこの家に呼んだ理由はこれだよ」
彼はテーブルの上にA4サイズの茶封筒をそっと置いた。
「………………?」
何を意図しているかわからずに戸惑う私に、彼は優しく微笑む。
「紗良が俺達の妹なのかどうかを調べたかったんだ」
「妹……」
どくんと鼓動が速まる。
目眩がしそうだった。
「確かに俺達は、紗良のお母さんのことを恨んだ時期もあった。でもそれ以上に、……君のことが心配だったんだ」
「慧さん……」
「俺には瞭がいたし、瞭には俺がいた。だから何とか生きてくことができた。だけど、あの日お茶会にやってきた心細そうな女の子は、今たった一人で泣いているんじゃないかって、俺らは気が気じゃなかったんだ。本当は、すぐにでも迎えに行きたかったけど、まだガキだったし、周りの大人達に邪魔されて。影で支援することしかできなかった」
溢れる涙を拭うことも忘れ、ぼやけた視界の先にいる二人を見つめた。
慈愛に満ちた、神様のような二人を。
「もしかしたら紗良は父さんの子供かもしれない。そう思ったら家族が増えた気がして、嬉しかった。だから絶対に、俺が大人になったら迎えに行こうと思ってたんだ。それが俺の支えだったんだよ」
ああ、なんて私はバカなんだ。
そうやってずっと大切に思い続けてくれたのに、恨まれているなんて怯えて。
泣きながら何度も頭を下げると、慧さんはポンポンと頭を撫でてくれる。
「謝らなきゃいけないのはこっちだよ。不安にさせて、ごめんね。これが俺の種明かし。次は、瞭の番」
急に話を振られ、瞭は「俺!?」と目を見開いている。
「別に俺は種明かしなんてない」
私から目をそらす瞭を、慧さんは笑った。
「あるだろ。瞭は、紗良が妹ではないことを願ってる」
ぶっと勢いよくお茶を噴き出した瞭。みるみるうちに顔が真っ赤になるので、拍子抜けして私の涙も止まってしまった。
「瞭は昔から、紗良のことを一人の女の子として見てたから」
瞭は否定も肯定もせず、更に赤くなるばかりで、思わず自分の顔も熱くなる。
『本当はずっと会いたかった。会えて嬉しかった』
そんなさっきの言葉を思い出してしまって。
「紗良は、俺達と血が繋がってると思う?」
頬杖をつきながら悪戯に笑う慧さんに、私は首を横に振った。
どうか繋がっていませんようにと祈るしかなかった。
震える手で封筒を開ける。
『DNA鑑定書』という文字が顔を出した。
結果は……
「……“血縁関係は認められません”」
ほっと安堵のため息をついてしまった。
そして同じようにため息をついた瞭と目が合う。
「残念だなぁ」
慧さんだけは眉を下げて苦笑していた。
最初のコメントを投稿しよう!