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3あたし、あたしさんと
目の前の男性二人がキョトンとした顔を私に向けている。彼らは、いや彼らじゃなくても私が言っていることが理解できる人はいないわ。
「詐欺だとわかっています。私は『あたし、あたし』さんと話し続けたいの」
「仲良しになりたいのは三角さんだけです」
眼帯男さんの顔を見る。眼光鋭く、私の言動を逃すまいとしている。元がつくけれど警察官で刑事をしていただけあるわ。並んで座っている助手さんは、アイドルさんみたいに爽やかで、私の話にうんうんと頷いてくれている。
「三角おばあさんは話し相手がほしいんだよ。ねぇ?」
私は深く頷き返す。一人が寂しいと思う日が来るなんて、一人でも色々と動けるように運動はしていたのに、膝が痛くて、躓き転倒が増えて億劫になっていた私。
「スマホ使えるご年配の人増えたからさ、テレビ電話で話すこと出来るんだよ!!」
助手さんは言葉にしないだけで、私をあたし、あたしさんから遠ざけようとしている。テレビ電話を使いこなせるようになったけれど、話す相手は病で倒れてそれどころじゃない友達ばかり。90歳になると、冥土に行った友達の方が多い。
「あたし、あたしさんは受け答えができる人なのよ?」
年寄りの長話だと嫌がる人が多いのに、彼らは嫌そうな顔を浮かべない。それだけでも、久々に歩いて出てきた甲斐があったわ。
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