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👻神里ミツル👻
ぼくに伝わってきた記憶の中に少女はいた。工事現場の作業員、ティッシュ配り、清掃員。白戸裕也も依頼人と同じくアルバイトを掛け持ちしていた。
「遠縁になっていても気がかりだったのは、姪っ子のこと。弟さんから送られてきた写真が、裕也さんと家族を繋ぐきっかけだった」
ぼくら三人は客間に通された。母親と弟夫婦との四人暮らし、弟夫婦が共働きのため孫の世話をしているのだと言う。
「拓馬は嫌がってたのよ?それなのに・・・」
客間の端っこにいる孫が立ち上がり涙を流している。あたしがあたしがとしゃくり上げ泣きじゃくる。10歳の少女はあの時救ったきららちゃん。ハッチーから見せてもらった家族構成に名前があった。ただ母親の旧姓にしていたためぴーんと来るまで時間がかかったけど。
「裕也叔父さんのこと知りたいのに誰も教えてくれないから。郵便物に叔父さんの名前があったから、あたしが写真を送ったの」
叔父さんを知りたがっている孫に教えたことは、近づかない方がいい人。
「きららちゃんを受け止めた時、裕也さんは足を挫いて尻餅をつく形で、頭部を打ちつけた」
白戸は脳震盪を起こしていたが、頭痛程度だったので気に留めなかったらしい。三日経ってから、症状が現れた。不運な事故死。
「きららちゃんが無事で良かったって言ってたよ」
少女が信じてくれるかはわからないけど、安心した顔を見れてホッと胸を撫で下ろす。ぼくの体質は大変なことが多い、だけど未練がある魂がある限りハッチーと共に続ける覚悟でいる。
👻👻👻👻
安西と書かれた表札が母親の旧姓で、母方の旧姓にしなければ暮らしていくのは難しかったようだ。ぼくにはまったく見えなくなってしまった白戸の霊。
ぼくらはミツハチ探偵事務所の前にいる。
「そうか、伝えておく」
ハッチーはまた一人で呟いてる。その方向に霊がいるのだろう。ハッチーは伊達のほうを向き最後の思いを伝えている。
「駆けつけて来てくれたのが、伊達さんで良かったと。これは白戸さんからの伝言です」
真剣に伝えているのは白戸裕也なりの終わり方。散々迷惑かけた家族には、これ以上辛い思いをさせたくない。ひっそりと思い出の場所で散骨してほしいとハッチーが伝え終えると、ひんやりと冷たい風がぼくの横を通り過ぎてく。
「ありがとうございます」
伊達の顔が晴れ晴れとしている。きっと彼のそばにいて見守ってくれる。そんな気がした。
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