3あたし、あたしさんと

3/5
前へ
/145ページ
次へ
 私と助手さんが並んで歩く帰り道。私に家族がいたなら、孫みたいな歳の差の青年。 「助手さんじゃなくてミツでいいよ?」  若者はこんな風に気軽に下の名を呼びあっているのだろう。助手さんは愛想がよくて初対面の人に近づいてくるけれど、嫌な感じはしないのよね。にさせられるの。 「いやぁねぇ・・・ばあさん呼ばわりしてたのにいきなりね」  孫がいる友達が以前言っていた言葉が浮かんできて苦笑している私。笑っていると助手さんも微笑み返す。 「ごめん、ごめん。なんて呼べばいい?」  『すずえさんいいわよね〜おばあちゃんなんて呼ばれなくて』  女性はいつまでも綺麗と言われたい。おばあちゃんなんて言われたらこんな複雑な気持ちになるのね。意地悪おばあちゃんの気持ちがわかった気がする。 「歳には抗えないもの。いいのよおばあちゃんで」  90歳でときめく感覚だけでもありがたいのに、下の名前で呼ばれたら倒れてしまうんじゃないかしら? 🐝🐝🐝🐝  老いの問題から逸れたわね。昼下がりに外出するのはいつもの日課で、雨が降ることもわかっていた。雨の日は大変なのよ? 「ゆっくり、ゆっくり」  今は助手さんが差してくれてる大きめな傘に入っているから、大変さは感じないけど。  普段はね、杖をついて傘を片手で差して歩くの。滑らないように気をつけて一歩、また一歩踏み出していく。 「三角さん、どなた?」  いやねぇ、普段は見かけても会釈だけなのに彼が男前だけで話しかけてくるなんて。まぁ私も似たようなものなのよねぇ。  アパートの扉の前でやっと助手さんがついてきた理由がわかったわ。『あたし、あたしさん』から電話がかかってくる時間帯だからなのね?
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加