1兄貴のように慕ってた彼は

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 僕らは探偵事務所から移動し裕也のアパートに来ていた。運転が荒いなんて一言もなかった。いやそれっぽいことサラッと言っていたか? 『現場まで突っ走るから〜捕まっててねぇ?』  助手の運転は荒いんでとか教えてくれたっていいじゃないかと、八谷を見るが涼しい顔で制服警官の前まで歩いている。依頼人を置いてけぼりにして・・・ 「ソフトなほうだよ」  ハードは何なんだとは言えずに酔いが治るのを待つ。制服警官と八谷が口論になる。こういうのって元警官だったり内通関係に刑事の友人がいる展開じゃないのかよ。 「八谷が来たと言えばわかる!!」  そんなんで入れるわけねぇだろ?所長のピンチに助手のミツは自由気ままに鼻歌歌ってるわ。大丈夫なのか?ふふんと近づいてるミツを見て驚いてる制服警官。 「神里さんお疲れ様です!!」 「そんなかしこまんないで。ぼくそういうの苦手だからさー」  所長の八谷は止められたのに、助手のミツはあっさり通過する。くるりと振り返り僕を呼びながら。 「伊達さんいいよ。ハッチーガンバ!!」  ガッツポーズを八谷に向ける。僕の腕を掴み一緒に入っていく八谷。二人にしかわからない関係性が垣間見えた瞬間。 🐝🐝🐝🐝  現場は裕也のアパートの一室。玄関先で横向きになって息絶えている友人がいた。 「肘に擦過傷が見られる」  ヘアーキャップを被り靴下の上から白いカバーを履き終えた僕ら。マスク越しに八谷がぶつぶつ言っている。助手のミツはじっと周囲を見回し八谷に向かって小声で囁く。 「?」  助手の問いかけに八谷の独り言がプツリと途切れ向かい側にしゃがんでいる僕らを見て深々と頷いた。 「そっかー大変なんだけどなぁ。依頼だからな」  気だるそうに話しているミツは僕を見つめながら微笑む。何かざわざわしていた全身に悪寒が走る。僕は二人のことに気をとられていて忘れていた。 『案件ですね』  冷静に言い切った八谷の声が記憶から呼び戻される。僕は苦笑いを返して誤魔化していた。
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