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左目の眼帯を外しテーブルに置く。伊達の強ばる視線を浴びながら、スゥッと息を吐く。
「な、なにを?」
トン、トン、トトン。
伊達のスマホに映っている白戸の写真を左親指と人差し指で弾くように、タップする。右手はミツの肩に置いたままにして。ミツハチ探偵事務所と書かれている窓がガタガタと振動する。エアコンの風よりも冷たい冷気が室内に漂う。
「彼の身体に憑依しました」
「う、嘘なんてつかないで下さい!!神里さん大丈夫ですか?」
神里のほうに視線を向けていた伊達のギョロ目がさらに大きくなる。隣にいるのはミツが変わっているからだ。見た目は変わらない、立ち振る舞いが変化している。
「おい、この兄ちゃん大丈夫だろうな!!」
甲高い声が低い声に変わり、命令口調へと変化していく。馴れ馴れしさが消える。
「大丈夫ですよ。お尋ねしますが、白戸裕也さんですか?」
まだ疑惑の視線を向けている伊達に、わかるようなサインを送らなければ。俺が目の前で余計な動きを見せればインチキだと批判されておしまいになりそうだ。ゴホンと咳払いをする。憑依されているミツは幽体離脱状態に近い。俺とのやり取りのサインは咳払いと決めている。
「何言ってんだぁ?ふはははは」
豪快な笑い方は伊達にしか知らない白戸裕也の一面。まだ半信半疑ながらも話を進めていく。
👁🗨👁🗨👁🗨👁🗨
反対側のソファーに移動し、深々と座る憑依状態のミツ。ネクタイを緩め背もたれに、もたれかかり両腕を伸ばしている。ふてぶてしい態度から白戸裕也と少しずつ認めはじめる。依頼人の伊達。
「頭が痛えなって思ったらそのまま。ふはははは」
後頭部を摩り豪快に笑う白戸。彼は笑い声を話しの前後に必ず入れてくる。伊達が恐る恐る聞き返す。二人の関係性は師弟関係といったところか?
「笑って誤魔化さないでください!!何があったんです?」
「あぁ!!今思い出そうとしてんだよ」
「あの日は豪雨で早めに帰った。おれ、工事現場の作業員してたんだぜ?」
俺はボールペンを走らせている。聞き逃しがないよう録画をしながら。
「それでどうしたんです?」
伸ばしていた右手を顎に摩りながら、記憶を手繰り寄せていく。眉間に皺を浮かべて懸命に思い出そうとする白戸。左右に揺れ始めたミツの前髪。
「ガキにぶつかって、足元を滑らせて遊歩道の階段から落ちたんだ」
「じゃあその子供が」
ミツの前髪の揺れが激しくなり、身体から白戸裕也の魂が出て行く。
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