美声のボディーガード

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特番が組まれたのは、番組開始から2ヶ月のこと。 それもスタジオではなく__。 「ビュースタ⁉︎」 自社ビル1Fガラス張りの、ビュースタで行うという。これまでアシスタント時代に何度か経験したことはあるが、メインパーソナリティーとしては、初。 「エステ行かなきゃ‼︎」 「今のままでも充分、綺麗ですって」 こいつ__じゃなかった、柴田俊介は最近、こういうことをサラッと言うようになった。 その都度、ドキッと胸が高鳴るほど、私は乙女ではないが。 いわゆる公開収録だ。 日頃、目に見えないのをいいことに、肌のお手入れを疎(おろそ)かにしていた罰を、高級エステで埋めなくては‼︎ なぜだかディレクターの涼子さんも同行することに。 「私だってまだまだイケるってこと、証明しなきゃ」 と、張り切っている。 真っ裸になり、脂肪と沈殿する汚れを揉み出される。 「ところで、プロポーズされたらしいじゃない。仕事のアブラが乗ってる時に限ってモテ期とはね。人生そういうもんよ。で、どうするの?」 「いや、まだそんなところまで考えられなくて」 「それかいっそ、年下アナにする?」 「それはないですよ。あれは手下みたいなもんで」 「私なら、その手下をいつまでも配下に置くわね」 涼子さんらしいセリフだが__私は思い浮かべてみる。 いつも元気で人懐こくて従順で、100%の気持ちをためらいも無くぶつけてくる、年下くん。 それなのに、その上から重なり合う同期の顔。 私は__いつしか眠っていた。 ヤツの残像を残したまま。
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