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いつもの場所。
此処は、私の居場所。
それは側でも正でもない、誰に左右されることのない私だけのもの。
でもそれはきっと__。
亮太にとってもそうなんだ。
ラジオと共に過ごした学生時代。受験勉強の息抜きにハガキを投稿した。今はメールで簡単に送ることができるが、当時は手が腱鞘炎になるくらい書いたもの。
言葉は__時に誤って伝達することがある。
受け取る側の意思一つで、真逆に捉えることもある。
けれど、その言葉を声にして発することにより、ニュアンスを操ることができる。声色、イントネーション、想いを声に乗せることができる。
アナウンサーになりたい。
そう心に誓ったのは、亮太も同じなんだ。
マイクの前に腰掛けると、自然と落ち着くのもきっと。
ここなら、良い企画が思いつくかもしれない。
ペンを片手に、知恵を捻り出す。
苦労でも苦痛でもない、言葉に繋がる道。ちょっと遠回りだけれど、きっとこの道を行けば__。
物音がして、サブを振り返る。
薄暗くて良く分からないが、ADだろうか?
「すみません、すぐ出ます」
立ち上がって資料やメモをまとめると__男はスタジオに入ってきた。
見たことがない顔だ。
しかも__社員証を下げていない。
「すぐ出ますから」
毅然と、怯えなど声に含ませず、笑いかけさえした。
だが、男は私の前に立ちはだかる。
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