美声のボディーガード

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咄嗟に退いたが、男が飛びかかってまで掴みたかったものは__マイクだった。 「こ、こ、これで読まれたいっ」 「次の放送で、ちゃんとお名前を__」 「名前じゃない‼︎」 男の怒鳴り声で、スタジオは息苦しいほど。 「き、企画とか、書いたし。アイデアも__」 「でもそれは」 出来ないという言葉も、嘘でもいいから読み上げるという言葉も出てこない。 緊迫した空気を和らげるなら、読むと言えばいい。それで男が納得するなら、それでいい。本当に読むか読まないかは別だが、一先ずはこの状況から解放される。 それなのに__。 「ごめんなさい。出来ません」 私がそう言うと、男の顔が歪む。怒りではなくら悲しみで。 「リスナーはアナタだけじゃない。みんなが思いを綴ったメッセージを送ってくれます。出来ることなら、私もその全てを読み上げたいけれど、番組の性質上、それはできません。だからこの間の公開収録で、せめて名前だけでもと読み上げたんですが、アナタの名前が漏れていたこと、それは素直に謝ります。本当にごめんなさい」 頭を下げた。 しばらく__何も聞こえない。 ただ、男の唸り声だけがスタジオを圧迫し、堪り兼ねてとうとう頭を上げる。 マイクを振り上げた男と、目が合った__。
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