その声に、さようなら

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そーっとベッドから抜け出す。 今、ヤツを起こしてしまっては、文字通りまた「襲われて」しまう。ただでさえ昨夜は、俺を遠ざけた罰だのなんだのと執拗に責められ__。 「何処に行く?」 手首を強く掴まれる。 「もう遅刻しちゃうから、離して」 「もう一回」 「ダメ」 「サクッと済ませる」 「言葉を選びなさいよ‼︎アナウンサーのくせに‼︎」 布団の上に足を振り下ろしてやったが、そのまま羽交い締めにされて、亮太の唇が首筋に吸い付く。 私の大好きな声が、吐息が、息遣いが、私の耳を刺激し、それが右の脇腹辺りを痺れさせ__。 「なら濃厚に可愛がってやる」 耳の奥で、なにかが弾けた。 お偉いさんに呼び出されていることも忘れ、密度の高い時間を朝から過ごす。 後悔はない。 ないけれど、これから番組のことを考えたら悩むわけであり、一度出たと思った答えが、消えてなくなってどんな答えを書いたか思い出せない__そんな感じ。 しかも、朝っぱらから昨日の出来事を槍玉に挙げられて、ただ頭を下げて釈明するも__。 「だから女性のメインはやめたほうがいいと言ったんだ」 「異性問題に発展しかねない」 「おとなしくアシスタントやってりゃいいのに」 __しかめっ面の上役にただ詫びるのみ。番組を降ろされないよう、ただ黙って耐えるしかない。言いたいことはいくらでもあるが。 「いい加減にして下さい‼︎」
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