その声に、さようなら

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結婚できないだけじゃない。 もう__自分の気持ちを隠し通すことはできない。 意を決して顔を上げた時。 「それは、徳川クンかな?」 「__はい」 「分かった。でも約束してほしい」 「約束?」 「ああ。どんなことがあっても、番組は続けてくれ」 それだけ言うと、関口さんは行ってしまった。 どんなことがあっても__。 「先輩‼︎ちょっと水くさいじゃないですか⁉︎」 そうだ、こいつの事もあった。 「連絡くれたらすぐ駆けつけたのに‼︎大丈夫なんですか?」 「ありがとう、大丈夫。さ、今日も張り切ってくわよ‼︎」 「さすが先輩‼︎」 忠犬柴田くんが、後ろをついてくる。 ま、こいつの事はいっか。 スタジオに入るのに一瞬だけ躊躇ったが、Qが出て、時報が鳴り、番組が始まると__余計な考えは消えていく。 やっぱり私は、この仕事が好きなんだ。 言葉が好きなんだ。 自分の声で言葉を伝えたい。 だが__。 「それでは、リクエスト頂いたメッセージをご紹介していきましょう。えーと、ラジオネーム__」 突然、止まった。 それまでなんら変わりなく番組を進めていたのに。 声が__出ない⁉︎ 「先輩?」 柴田くんの声に、顔を上げた。恐らく、彼と同じ表情をしているはず。だって私、声を出そうとしているのに、出ないなんて__。 「ラジオネーム、ヘリックスさんですね、いつもありがとうございます」 柴田くんの声を、私はぼんやり聴いていた__。
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