その声に、さようなら

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声そのものが出なくなったわけではない。 その証拠に、翌日の放送もなんなく熟(こなせ)た。ただ、ラジオネームを読む前になると、ノドが塞がって声が出なくなってしまう。 柴田くんがすかさずフォローしてくれて事無きを得たが、いつまでも披露だからとは言い逃れできない。 言葉。 私が読み上げるネームが、その本人の人生までも左右してしまう恐れがあることを__身を以て経験したからか。 急につかえてしまうので、番組のリズムが不安定になり、私の心情を表したように全体的に元気もない。 このままずっと続くようなら、自らの意志で降りることも__。 肝心の亮太は、また出て行ったのか連絡もつかない。同じ声を職業とする身として、相談したかったのに。 番組が中盤に差し掛かる頃になると、意識してないつもりでも、声が小さくなってしまう。 今日は声が出るだろうか? どこか空元気に振る舞いつつ、リスナーのメッセージを紹介するコーナーに突入する。 いざとなったら、柴田くんに任せてもいい。 でもそれじゃ、根本的な解決にはなってないし、第一、私が寂しい。 気合いを入れて、メールがプリントされている文字をサッと追いかける。 とりあえずラジオネームは後だ。 メッセージは読み上げることはできる。 私は、リスナーが認(したた)めた思いを、声にして読み上げた__。
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