その声に、さようなら

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__時計の針が12を指した。あと1時間。 私は自室のベッドの上で、その時を待つ。いつもの「声」を聴く場所で__。 亮太のメッセージのお陰で、声が詰まることなく番組を終えることができた。 まさか今まで、私のことをそんな風に思っていたなんて__。絶対的な声を持つ亮太にも、言葉に思い悩む事がある。それを誰かに、特に私に伝えることはきっと、簡単なことじゃなかったのではないか? だって私たちは__同期のライバル。 互いに気持ちはあっても、目指すところは同じ。恐らく一生、ライバルであり続けるのだろう。 そんなことを考えていたら一瞬、微睡(まどろ)みかけた。 「ミッドナイトシアターの時間がやってまいりました。こんばんは、徳川亮太です」 耳を撫でていく、心地良い声に目を覚ます。 一体、いつ何を言い出すのだろう?と、身構えて聴いていたが、番組はいつもの通りに進んでいく。 亮太の映画の知識は底なしだ。 マイナーなウンチクを楽しみにしているリスナーも居るが、面白くない駄作だとあっさり口にしてしまう裏表のなさが、また人気の秘密かもしれない。 いくら深夜帯とはいえ、これだけ長い間続いているということは、私のように枕を抱いて聴いているリスナーの多さを物語っている。 昔のボディーガードのサントラが流れ__あとは、おやすみの挨拶を残すのみ。 なんだ、なにもないじゃない。 私が肩の力を抜いた時__。
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