その声に、さようなら

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「俺は__自分に自信がありました。自分の声に。だからスポーツ実況に配属されてすぐ降ろされた時はショックというか、ワケがわからなくて。もう辞めようと思っていた時、この番組に拾われました。それも、俺の声じゃなく、たまたま飲んだ席でプロデューサーと映画や音楽の話になって__俺のマニアックな知識が気に入られたってだけで。半ばヤケクソでしたね」 フッと亮太が笑った。 少し垂れ目になる、その顔が浮かぶ。 誰にも打ち明けたことのない胸の内。私は一文字も、一声も聞き逃すまいと、ラジオに張り付く。 「それでも好き勝手に番組をやらせてもらって、リスナーの皆さんと交流し、やっと分かったことが__ラジオは声が命だけど、それは声色じゃなく、あくまで言葉を伝える思いだということ。それは、ある同期に教えられました。彼女は__いや、アイツはどこにでもいる平凡な声で、それなのに俺の耳を素通りしない。それは、言葉に思いを乗せているからであって__アイツだけには負けたくないと仕事をしてきました」 いつも、余裕の風を吹かせていたのに。 「同期でライバルで俺にとって__最愛のアイツ。そんなアイツを、失ってしまうかもしれない出来事があり、俺は気づきました。俺にとって、なにが1番大切なのか?もちろん、仕事は大事です。心から、この番組を大切に思ってきました。でも俺には声がある。言葉を信じ、愛し、伝えることができる。俺にとって無くしてはならないものは__お前なんだ、杉田愛子」
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