その声に、さようなら

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「よう」 軽く手を上げた。 さすが好敵手の将軍。 私の気を削ぐ手を知り尽くしている。けれど負けてなるものか、その首を討ち取ってやる。 「なによ昨日のあれ?」 「プロポーズだけど?」 「そうじゃなくて、番組を降りたじゃない」 「あぁ、あれは番組を降りたんじゃなくて会社、辞めたから」 一気に攻め込んできた。奇襲といってもいい。 「辞めたって__どうするよ、これから」 「どちみち徳川財団の管理やれって、せっつかれてたしな。俺はもうアナウンサーじゃない。これで心置きなく結婚できるだろ?」 「なによそれ__ふざけないでよ‼︎」 するすると、手の指から「何か」が零れ落ちていく喪失感を叱りつけるように叫んだ。 「誰が辞めてくれって頼んだのよ⁉︎アナウンサー、亮太の夢だったじゃない‼︎私のためにそれ捨てて、私そんなのっ、そんなの認めない、認めないから‼︎」 絶対に、許さない。 零れて掬(すく)えないものがなにか__それは声だ。ラジオから、亮太の声が消える。 同期として、ライバルとして、リスナーとして、彼の声を最も愛するものとして、それだけは絶対に__。 亮太が、無言で私を抱きしめた。 悔しくて悲しくて、どうしようもなくて震えている私の身体を、優しく__とても優しく。 泣いた子供をあやすように背中を柔らかく叩かれ、強張りが溶けていく。
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