喘ぎ声を押し殺して

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ラジオは「声」が命だ。 いくら私が笑顔でも、その顔は伝わらない。心を声に乗せて、聴いてくれるリスナーに届けなくては。 いつも明るく元気な愛ちゃん、で親しまれている。 14:00に番組が終わると、ご飯を兼ねた反省会。 15:00には、今日の報告をパソコンに打ち込むなど、女子アナの雑務が待っている。 そして17:00には__。 「第24回参院選が公示され、投票日に向けた論戦が始まりました。自民党は雇用増や税収の改善などの成果を強調。一方、民進、共産、社民、生活の野党四党は格差を拡大させたとして批判しました」 当番制の定時ニュースだ。 番組とは違って、ミスができない。 5年経っても緊張するが、なんとか終えるとスタジオを出た__。 「おう‼︎我らの愛ちゃん‼︎」 そんな馴れ馴れしい呼びかけに、クルッと背を向けた。 今、1番、会いたくないヤツだから。しかしそんなことは、あいつは100もお見通しなんだ__。 半ば逃げ出すように、でも逃げ出しているとは悟られないペースで距離を引き離そうとしたのだが。 「2回」 「は?」 思わず立ち止まり、振り返った。そして睨みつけた。 「さっきのニュース。2回、噛んだ」 「噛んでません」 「雇用増のところと、野党四党のところ」 ドヤ顔中のドヤ顔でほくそ笑む、本当に憎たらしいこいつは__徳川亮太(トクガワリョウタ)。 「愛ちゃんさ、噛むならやめたら?アナウンサー」 「うるさい」 「俺が嫁に貰ってやるって」
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