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「なんなら妾(めかけ)でもいいけど」
「あんた、殴られたいの?」
「DVはんたーい!」
大袈裟に騒ぐ亮太は、同期入社の同い年。
いってみれば、ライバルだ。
2回噛んだのは、自分でも分かっていた。ラジオの向こう側なら、なんら問題はない。ただ、同じアナウンサーなら見破られてしまう、僅かな綻(ほころ)び。だから背を向けて逃げ出したのだが__。
こいつに、こいつにだけは、指摘されたくなかった。
「もっと昼帯みたく読めばいいじゃん。ニュースの時だけ緊張してっから、喉が塞がるんだよ」
「早々とスポーツ実況おろされたアンタに言われたくないわ」
「それはあれじゃん、俺の声が良すぎるからだろ?」
そう問われれば、言葉に詰まるしかない。
亮太は__とてもいい声をしていた。
同じアナウンサーとして嫉妬してしまうほど、いつも落ち着いていて、嫋(たお)やかで憂いに満ちて、それだけは認めるしかない、それだけは。
おまけに、私たちの憧れである冠番組を持っている。
それは紛れもない、声に対する評価だった。
いくら深夜帯だとはいえ、入社まだ5年目で看板番組が持てるほど、甘い世界ではない。実力なのだ。
「俺、18:00からニュース当番だから」
「だから?」
「噛まなかったら__俺と付き合わない?」
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