友と呼ぶか、好きと呼ぶか。

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時間とは歳を重ねると共に早く過ぎていくようになるという。 よく聞く話だが確かにその通りだ。 幼き日の私の一日に比べてみると、なんだか(いや)が応でも時間の経ちの早さを感じてしまう。 午前の授業が終わり、お昼休みの時間に入るーー。 「なんだって? 恋煩い? アンタが?」 「しっー、もう少し静かな声で言ってくださいよ……今保健室誰もいませんよね?」  背後にある白いカーテンに覆われたベッドの方におそるおそる顔を向けるや、目の前の先生へとゆっくりと向き直る私。 「大丈夫、大丈夫。今日は駆け込みしてくる子たちそんなにいないから。遠慮なしに言ってみな」 へいへい、と言った感じに軽く答える目の前の先生。 やれやれ、先生のこの軽さ加減を見ているとたまに本当にこんな様子で大丈夫なんだろうかと心配になる。 だが、それでも頼りになるのがこの方、保健室の長こと三上先生である。 実は私は、己の恋の悩みについてまだ誰にも打ち明けてはいなかった。 というのも簡単な話、ふつうに小っ恥ずかしくて誰にも話せていなかったのである。 だがしかし、今日の朝のヒロさんとの会話で私はとうとう折れてしまった。 ーーあぁ、ダメだ。なんだか誰にも話せないままでいたらモヤモヤがずっと胸の内と頭の中を(まと)わりついて、私が耐えかねてしまう……。 と、そう思い、朝の教室から打って変わって昼の保健室にて、私はこの三上先生に自信の恋の悩みについて素直に打ち明けてみたのである。 「じゃ、じゃあ、言わせてもらいますよ……最近、その恋煩いというか好きな人のことで頭がいっぱいになってて……日常を穏やかに過ごせないんですよ。この話まだ誰にも話してないし、一人で抱えてたら耐え兼ねちゃって……それで、先生に話したんです。先生は、こんな経験ありますか?」 「お相手は?」 「……」 「同じクラスの子?」 「……ん?」 「誰だったりする?」 「…………はっ?」 おう、何ということでしょう。やっぱりこの先生に話して不正解だったのかもしれない。三上先生を選んでしまった私が馬鹿だった。 「先生……そこ普通に相手のこと聞きます? しかもめっちゃ細かいし」 「え、なんで? ダメぇ?」 「いや! 待ってくださいよ! そもそも聞かれたら言いづらい事をそんなズカズカ聞かれたらさらに言いづらいじゃないですか!! 先生ひどくないですか!?」 「ひどい?! え、ひどい!? そんなにダメだった!? アウト?」 「ダメですよ!! アウトですよ!! 先生恋の相談相手今までにしたことあります?!」 「正直に話そう。ない」 「あ…………」  本当にそうだったのか……うぅ、思わず肩がすくむ。 「あー……先生に話して後悔してますぅ……」 「はははははっ、ていうのは冗談。普通にあるよ? 恋の相談。なんならアンタより一年下の子たちからも何度か話されたことあるし。これでも結構相談できちゃうんだなー私」 「えっ? なんだ……ふざけないでくださいよ。調子狂います」 「ごめんね。可愛い生徒には意地悪したくなっちゃうんだ☆」 なんか語尾にチラつく星が腹立つなぁー……。 じっーと、先生の顔を見つめ返してやろう。 「さて、おふざけはもうやめるね。悪ふざけが過ぎました。さっきはふざけて聞いてしまってごめん。真剣にお話しに付き合う。もう全然相手のことも聞かないから。言いたいこと、話してみて」  眼鏡をくいとかけ直すと、先生は落ち着いた様子で私に顔を向けてくる。 「……わかりました。さっきも聞きましたけど、先生はこういう経験ありますか? 恋に悩んでモヤモヤした経験」 「あるにはあるけど、聞いた感じ、アンタよりは悩んでないかな。私は思い切り良いから、そんなにだったと思う」 「そっか……」 そうか。先生はそういう感じだったんだな。だとすると、あんまり分かってもらえないだろうか。この気持ち。 世の中にはたくさんの恋の場合(ケース)があると思う。考えなくても、きっとたくさんある色んな場合(ケース)。 学生時代、人知れず片思いでい続ける人。お互いに知ることのないまま両思いになる人。幼い頃から相手に対し、好きな気持ちを抱き続ける人。 考えるだけで、いろんな場合が頭に浮かぶ。 もしかしたら……もっと打ち明けあう事だってあるかも知れない。 だけど、私の場合はどうだろう。 ーー親友を好きになってしまったこの場合。 「……あの、先生」 「ん、どうしたの?」 「友達を好きになってしまったら、どうしますか? 先生だったら」 「……」 先生は私の顔を見て一拍おくと、すぐに向き直って返事を返してくる。 「告白するね」 「躊躇なくですか?」 「もちろん」 「普通躊躇しませんか? 友達ですよ」 「そりゃするにはするけどさ。私はそれでも告白するって決めるなぁ」 「そうなんだ……どうしてですか?」 「うん。まぁ、確かに場合によりけりだろうけどさ。それが初恋だったりしたらなおしてやるって決めるね」 「先生……本当に思い切り良いですね」 「あはは、でしょう? 私はさ、悩みはするけど躊躇いはしないの。そこはやっぱり、人と違うのかな。でも、チャンスみたいなものだと思ってる」 「チャンス?」 「そう。何事においても私はそう思ってる。チャンスよ。だって考えてみて。もしかしたら、人を学生のうちに好きにならない場合だってあるかも知れない。ちょっと極端な例だからあてにはなんないかもだけど……ようは巡ってきた機会には出し惜しみするべきじゃないってこと」 「はあ……」 「せっかく人を好きになったのなら、たとえ相手が友達でも告白しないと! もったないわよ?」 「告白ですか……」 「そうよ! なんなら手ほどきしちゃうわよ? 私に任せてみなさい!……て、あもうお昼終わるわよ。そろそろ行きなさいな。授業始まっちゃう」 「……はぁーい」 告白をする。 先生は本当に思い切りがいいな。私ならできないよそんな事。恥ずかし過ぎて。 普通の人でもするまでに時間かかるだろうし。 先生みたいに恋愛で思い切りがいい人って世の中にどれくらいいるのかな? その勇気を分けてほしいな。 …………。 ……それに先生。私はただの友達を好きになったんじゃないんだ。 相手は親友なんですよ。ちっちゃい時からの。 仲の良い昔からの、親友。
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