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今日も、猫のお迎えに
司法書士試験は梅雨時の日曜日、葵は午前中の受験だった。
朝、送ろうとしたら、気持ちが緩むから嫌だと断られ、試験の終わり時間に合わせて迎えに行くことになった。
助手席には細長いケース。猫の首輪だ。まだ、葵からのプロポーズを受けていないから、指輪は先になりそうだ。
ただし、首輪はつけておかないと。フリーの黒猫ではないことをアピールしなくてはならない。
俺も必死だな。
規模の大きな大学の会場を借りて試験は行われる。1か月後には自己採点ができるらしい。
試験時間が終わり、しばらくして大学から人が出てきた。葵にはメッセージを送っていて、先ほど既読になった。車はパーキングにおいて、校門の方に向かって歩く。
やがて、男にしては普通で、女にしては背の高い、中性的な美人がきょろきょろしながら出てきた。
俺を見つけて、満面の笑みを浮かべる。花が咲き誇るような、華やかな笑顔に周りの男も女も振り返る。
「どうだった?」
「はは、来年、頑張る」
「そうか。ちょっと散歩して帰るか」
「うん」
しなやかなのに俊敏さに欠ける猫が俺の腕を取る。
「来るときに見つけた店が旨そうなんだ。昼めし、食おう」
猫は俺よりも背が低いから少し見上げるようになる。
「大輔さんが迎えに来てくれてよかった。二人で食いに行ける」
ご機嫌な黒猫が大学近くの学生街に俺を引っ張っていく。
そうだな、猫は機嫌がいい方がいい。車に戻って、首輪を見せたら何て言うだろう?
何も知らずにご機嫌に、饒舌に話す黒猫に相槌を打ちながら、誕生石のネックレスをつけた葵を想像した。
そりゃ、かわいいに決まっているさ。
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