We are not alone Ⅵ

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We are not alone Ⅵ

 時間はすっかり夜も深まる頃となっていた。車内では弁当を広げた二人が、コンビニに停めた駐車場で、その中身をビニール袋の上に広げている。 「今日、最初の食事が、これとか……」  そしてボソリボソリと箸を進め始めたトオルが、ブツブツとはじめると、 「しょうがないでしょ。これが私たちの仕事っ」  と、ハルカは的確にパクパクとして答える。 「に、したってさ~。UMA0134さんも、ドジすぎるでしょ。元が水棲生物って自覚あんなら、もっと緊張感あってほしいよ」 「慣れない外国で、好きな水浴びもできずにお仕事、頑張ってるのよ? UMA0134さんもいっぱいいっぱいなのよ」 「や。外国ってか、そもそも、星、違うでしょ」 「あっ」 「しかも、結局、ずっと手にもってたって。どんなボケよ。地球人かよ」  食欲の渇ききったトオルは、皮肉が収まることを知らない。そんなことは長年の付き合いでハルカが一番よくわかってることだ。ブツブツと猫背となっている横顔に、ハルカはひとつため息をつくと、 「わかーった。今日は帰ったら、あなたの食べたいもの、作ってあげる」 「えっ?!」 「作り置き、続いたしね。いいわよ。なんでも作ってあげる」  それは、かつて、その胃袋をがっちり支配していた者からの、強烈なパワーワードだった。そしてハルカがハンドルの前で、少し首をかしげるようにして相手の出方を見てみれば、その顔はみるみる灯りを点すように輝き、今や、リクエストに迷う姿は、これがほんとに中年かと思えるほど、その皮を被った子供のようだ。 (……ま、私も、おばさんなんだケド)  そして、ハルカの乙女心など露とも知らないトオルの機嫌が容易く直ったところで、 「では、任務の遂行に入ります」 「うい」  彼らは、漸くありついた食事を一通り終えると、そのゴミを捨てるためにも、もう一度、目の前で煌々と点る、コンビニエンスストアに立ち寄るのだった。  新たなビニール袋を握ったハルカを先頭にして、二人は、コンビニ店の丁度、裏手となる山にある、細長い階段を登っていく。勾配の強い世界は、近づきつつある夏の陽気も相俟って、夜になっても冷えることを知らず、間もなくしてトオルの息は上がりはじめていた。 「やだ。虫よけ、忘れちゃった」  とは、まるで平然と登り続けるハルカの独り言であった。そして、彼女は周囲のなにかを払うようにするのだが、たしかに細長い階段は、夜になっても元気そうな虫の群れがあちこちにいそうな、鬱蒼とした森林地帯に彼らを誘っていくようだ。  ペースに関しては、既に差がつきはじめていた二人である。もはや、トオルは、ちょうど、自分の真ん前あたりで、相手の尻がゆれていることを楽しみにしなければやってられないほど、げんなりしはじめていた。 「…………」  そして、もはや、それ以外のことを考えずに、ただただボーっとハルカの尻を追いかけていた矢先、 「着いたわ」 「ん?! むにゅっ」  唐突に相手が止まったと思えば、猫背のままにその尻にしか喜びを見出せてなかったエロ男は惰性で数歩歩いてしまい、とうとうそのふくよかな弾力に、久方ぶりに顔面を突撃させてしまったのである。  ただただ、任務に忠実に、正確に歩いてきただけのハルカにとってみれば晴天の霹靂だ。 「ちょっと?! なにしてるのよ?!」  かつては散々許してやっていたこととはいえ、それも時と場所によってのことである。  それでも一瞬、昔のような愛おしさももたげたかもしれないと思えば、それを打ち消すかのように、即座に振り向いた赤面はトオルを拒むようにした。  ただ、その刹那、急斜面のなか、脱力のままに惰性で歩いてきた結果も相俟って、あっけなくハルカの拒否の圧に屈してしまったトオルは、今や、バランスを崩してしまったのだ。 「えっ……?」 「トオルっ!」  ここで転げ落ちれば大怪我にもなりかねない。事態に表情が追いついてない長身に対し、迅速だったのはハルカである。  そして、地面の砂粒もはねる音がした刹那、そこにあったのは、尻もちでもつくようにした体勢のハルカに、折り重なるようにしてあったのがトオルだったのだが、事態の回避としてはしょうがないことだったのかもしれないが、長身の顔面は、今度はその、はちきれんばかりの豊かなバストのなかに埋没していたのだ。  尚、目をつぶって、危険に対して守るように抱きしめていたハルカに対し、目を見開いて、漸く状況を悟ったのはトオルだ。 「あ! え?! ご、ごめん」 「…………!」  そして慌てて、特に若かりし頃などは、自分の安息の場所であった其処から自らの顔を引き離すと、動揺とともに顔も真っ赤、という具合である。  また、同じく真っ赤にしていたハルカは、 「……ま、まったく! だから任務に集中してって言ってるでしょ!」  などと、そうして、乱れた髪などを直しはじめた。 「う、うい~」 「もっと、もっと、体力もつけなきゃだめね! さあ! 任務を継続しますっ!」 「うい~」  また、衣服の汚れを払いつつ、ハルカは立ち上がると、照れ隠しのように、再度、プイと後ろを向く。気まずい空気のなか、その後ろ姿に、頭もかきかき、長身はついてくようにするのだが、そんな二人の眼前に現れるのは、夜に佇む鳥居なのであった。
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