朝焼け 

11/102
前へ
/102ページ
次へ
その日の夜、白鷺さくらから電話がかかってきた。 手紙には頭の痛くなるような内容が羅列してあったので、早々に手の届かない引き出しの奥にしまいこんだ。 「もしもし」私は、恐る恐る電話に出た。 「あの~……うふふっ」電話を通すと白鷺さくらの声は、意外と可愛かった。幼い子が喋っているみたいだ。 「手紙、読んでもらえましたか?」 「ざっとは見たけど、ちゃんとは読んでない」 「そうですか……」声が暗くなる。 「ごめんね。よく分かんないけど、白鷺さんは男子にそういうお手紙書いたほうがいいよ」 「え~っ。でも、男子って、なんか、でかくて汚くて、きもいっていうか」 「小柄な子もいるし」 「私、小さなころに従姉妹のお姉ちゃんに宝塚に連れて行ってもらって、その時の男役で主役していた人がほんっとうにかっこよくて。もう一度会いたいな~と思っていたら、中学の入学式で真澄さまを見て!」 「私がその人に似ていた?」 「いえ、全然」 支離滅裂な会話に、一瞬呆気にとられて私は黙り込んだ。 「でも!走っている姿が!走っているときの横顔が、なんかちょっと似ていたんですよね!」 「はあ」 「真澄さまは、何でいつも走っているんですか?」 「遅刻するし」 「か~っこいい!」 「はあ?遅刻が?」 「じゃなくて、その長々と喋らないところが、クールで!『俺は余計なこと喋らないぜ』的な~!」 最早、なんとコメントしていいか分からず、一瞬シーンとした時間が流れた後、私は口を開いた。 「え~っと、とりあえず用事はそれだけね。じゃ、切るから」 「あ~っ、待って下さい、真澄さま~」 プチッ。 とりあえず、明日からは早起きして普通に歩いていこう。 私は決意すると、スポーツバッグに明日の時間割を乱雑に詰め込んだ。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加