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その日の夜、白鷺さくらから電話がかかってきた。
手紙には頭の痛くなるような内容が羅列してあったので、早々に手の届かない引き出しの奥にしまいこんだ。
「もしもし」私は、恐る恐る電話に出た。
「あの~……うふふっ」電話を通すと白鷺さくらの声は、意外と可愛かった。幼い子が喋っているみたいだ。
「手紙、読んでもらえましたか?」
「ざっとは見たけど、ちゃんとは読んでない」
「そうですか……」声が暗くなる。
「ごめんね。よく分かんないけど、白鷺さんは男子にそういうお手紙書いたほうがいいよ」
「え~っ。でも、男子って、なんか、でかくて汚くて、きもいっていうか」
「小柄な子もいるし」
「私、小さなころに従姉妹のお姉ちゃんに宝塚に連れて行ってもらって、その時の男役で主役していた人がほんっとうにかっこよくて。もう一度会いたいな~と思っていたら、中学の入学式で真澄さまを見て!」
「私がその人に似ていた?」
「いえ、全然」
支離滅裂な会話に、一瞬呆気にとられて私は黙り込んだ。
「でも!走っている姿が!走っているときの横顔が、なんかちょっと似ていたんですよね!」
「はあ」
「真澄さまは、何でいつも走っているんですか?」
「遅刻するし」
「か~っこいい!」
「はあ?遅刻が?」
「じゃなくて、その長々と喋らないところが、クールで!『俺は余計なこと喋らないぜ』的な~!」
最早、なんとコメントしていいか分からず、一瞬シーンとした時間が流れた後、私は口を開いた。
「え~っと、とりあえず用事はそれだけね。じゃ、切るから」
「あ~っ、待って下さい、真澄さま~」
プチッ。
とりあえず、明日からは早起きして普通に歩いていこう。
私は決意すると、スポーツバッグに明日の時間割を乱雑に詰め込んだ。
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