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教室には金岡さんの荷物が置きっぱなしになっているのに、姿の見えない金岡さんのことを誰も話題にしなかった。
いや、私の知らないところで、誰かが話題にしていたのかもしれない。
でも、私は知らなかった。クラスの輪に入ってない私には知らないことがたくさんあった。知った方がいいと暗に勧めてくる子もいたけど、私は知りたいと思わなかったし、知る必要もなかった。
自分の心と話せば、自分の望んでいるものくらいわかる。だけど、みんな自分の周りばかり見ていて、自分自身を見ていなかった。
いつも一人でいる私に、なぜ一人で帰るのか、と聞いてくる子もいた。白鷺さくらにも聞かれた。一人で寂しくないんですか?退屈じゃないですか?私はこう答えた。
別に。早く帰りたいし、道の脇のゴルフ場を眺めたり、空を眺めていると飽きないけど。そう答えると、みんな「ふーん」と少し小バカにしたような視線を投げかけた。
なぜ、金岡さんを追いかけていかなかったのだろう。間違いなく金岡さんは、ひどく傷ついていたというのに。
私は何度も心に問いかけた。さくらに引き留められたというのは言い訳だ。金岡さんにたいして、そこまでの義理がないっていうのも本当だ。
だけど、何が悪くて何が悪くないかぐらいは、私にだってわかっていた。
「ねえ、白鷺さん。なんで私を止めたの?」放課後、さくらに聞いてみた。
「だって……悪いのは金岡さんだから」
「金岡さんは悪くないじゃない」
「まこちゃんは、木村さんの親友だったのに、裏切ったって聞きました」
「裏切ったって何したの?」
「さあ……」
さくらが俯いて、じっと床を見ていた。これじゃあ、私がさくらをいじめているみたいだ。
「私はよそ者だから」さくらがぽつぽつと話し出した。
「この町では、よそ者は何も関わらない方がいいって……お母さんによく言われていたし。渡辺さんも……気をつけたほうがいいです」
息子の足にはね、レンガのブロックがくくりつけてあったんです。私は思い出した。遠方から着任したばかりの担任は何も気付かない。
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