8人が本棚に入れています
本棚に追加
キシモト。小学生の時に奈良の遠足で見た仁王像の姿を思い出した。
姿形は全く違う。背は高いほうではないし、色が白くて少し神経質な感じがする。涼やかな瞳に通った鼻筋のせいで、プライドの高そうな冷たい印象だ。
それなのに、彼の怒りの感情は、まっすぐに突き刺さってきて、周りの人間は何もいえず彼を見つめているだけだった。東小学校出身の人間……とくに女子は、彼に対してあまり良い印象を持っていないようだった。
白鷺さくらにいたっては、顔をしかめて、「キシモトって大嫌い」と吐き捨てた。とにかく変わっている。林間のキャンプファイヤーで、突然、何十年も前の歌を歌ったとか、授業中に突然、出て行ったとか、怒ると手がつけられなくなって、机ごと人をけりとばすなんて、日常茶飯事だったとか。
「人が自分をどう思っているのかなんて、気にもしないんですよね」とさくらは説明した。
「だから嫌われちゃうようなことも平気でするし、周りから浮いている」
「人が自分をどう思っている」と私はつぶやいた。
「そう」
「それって重要?」
「重要でしょ」さくらは、きょとんとした顔でこちらを見た。目を見合わせると二人でふきだした。
「真澄さまも、変わっていますよね」
「そうかな」
「誰かに良く思われたいとか、ないでしょ」
「ないな」
「どうしてですか?」
「わからないけど、私の場合はいつも自分が同じ場所にいるからかな。自分が世界の真ん中にいて、そこから世界を見ている。世界に見られているわけじゃない。」
「人に好かれたいとか、ないんですか?」
「人の本当の気持なんか私にはわからない。好かれていると思っていたって、相手が本当にそう思っているのか、どうやっても知ることはできない。だから、人に好かれているかどうかなんて、本当のところあまり意味はない」
「ふうん」
だけど、それを強さと勘違いされるのも困る。
結局のところ、人は幻想の中で生きている。その幻想をはぐって、世界と対峙しようとしているだけなんだと、そう思う時もあるけど、さくらにそれを説明することはやめておこうと思った。
最初のコメントを投稿しよう!