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「僕の息子はね、自殺したんですよ」
薄暗い部屋の隅で隣の駅に住む電気屋さんが話していた。壊れたテレビを修理しているところだった。
「終戦後、何も知らずに地元の人たちのど真ん中に家を建ててしまって、本当に何も買ってもらえなくて困りました。」
苦笑しながら母と話していたのを思い出す。
私は、台所で宿題をしていた。
「あの人の息子さん、海に飛び込んで自殺したんだって」
電気屋さんが帰った後に、母は湯呑みを流しにつけながらつぶやいた。
「だけど、不思議よね。足にはレンガのブロックがくくりつけてあったんですって。」
テレビの画面は日常のふりをした非日常な映像を綺麗に映し出していた。だけど、あの人の失った日常は永遠に帰らない。
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