朝焼け 

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何か言葉をかけようとしたけれど、どんな言葉も嘘くさい慰めにしかならないような気がして、私は黙っていた。似たような経験があれば、少しは重みを持った言葉が思いついたのだろうか。でも他人と深く関わってこなかった私は、その悲しみを癒す言葉を持ち合わせていなかった。 「小学校に入ってから、なかよし活動とか言って、一年から六年までの学生で六人くらいの縦割り班を作って、活動する機会が増えた」 「うちの学校にもあった」 「東小フェスティバルとか、しょぼい縁日みたいなのをみんなでやったりね。くだらなかったけど、まあ学校行事だから」    心の中で、あの~私はなかなか楽しかったのですが、あのミニ縁日。とつぶやいた。 「俺が一年の時に、兄ちゃんは四年でさ。ずいぶん、大人に見えたな。寡黙な人で無駄なことは喋らない人だった。最初の頃は、俺たちは何の接点もなくて、俺は上級生に指示されたことを渋々とやっていた。珍しく大きな問題も起きなくて、まあ、これはこれで楽しいかもなって思い始めていた。でも、そう上手くもいかないんだよな。俺だからさ。二年の女子が、俺に鉛筆を盗られたって言いがかりをつけてきた。よく分からないんだけど、父親が海外出張で買ってきた大切な鉛筆らしくって、ちょっとそこらへんでは売ってないような綺麗な文様が彫ってあったらしい」 「私もお土産でそういうの貰ったことある」 「俺は、そんなもの興味もないし、絶対に盗ってないって言った。でも、俺が問題児扱いされていたことを知っていたやつらは、絶対に俺が犯人だって譲らなかった。みんなが、俺の制服のポケットやランドセルを調べるって言い始めて、子供心に理不尽だって感じていた」 私も知っている。個人個人は良い人。でも、大衆は時に理不尽になる。
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