朝焼け 

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ああ、この人もまた、何気ない日常を失ってしまった人なんだ。たった一人の理解者。心から信頼出来た人。ずっと続くはずだった日々はいともたやすく壊れてしまった。 「その人、どうして自殺したの?」 「理由は分からない。ただ、海に入って死んだって聞いた。冬の海で」 「海……」私は、言葉を選びながらゆっくり話した。「足に……レンガをくくりつけてなかった?」 「えっ?」岸本が驚いて顔を上げた。 「小学生の時、テレビを直してくれた電気屋のおじさんが言っていたの。僕の息子は自殺したんだって。足に、レンガをくくりつけて海に飛び込んだんだって。それを聞いた母が不思議がっていた。中学生で、そこまで考えが及ぶものかなって。本当は、誰かにレンガをくくりつけられたんじゃないのかって」  その話を聞いた岸本は、午後の予定をキャンセルして兄ちゃんの家に行くと言い出した。
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