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「何、聞きたいの?」
「うん。おじさんにとっては、思い出したくないことだと思うんだけど。兄ちゃんが亡くなった時のことを詳しく教えてもらえないかと思って……」
おじさんは、黙ったまま岸本のことをじっと見ていた。
「どうしたんだ、急に。もう、一年以上前の話なのに。私にとっては、つい昨日のことのようだが」
「渡辺さん、ああ、この人だけど、渡辺さんと話していて、ふと、あれは本当に自殺だったのかと疑問に思ったんだ」
緊迫した空気が流れて、おじさんは
「店の奥にあがって」と言うと先に奥へと入っていった。
恐る恐るおじさんの後をついていくと、奥に畳の部屋と丸いちゃぶ台が見えた。簡素だが、綺麗に片付けられた清潔な部屋だった。
中に入るとすぐに仏壇があり、詰襟を着た男の子の遺影が飾られていた。
岸本は黙って仏壇の前に座ると、じっとしたまま何か考え込んでいた。
そして、そのまま目を閉じると、静かに手を合わせた。
私も黙って、岸本の横に正座した。
仏壇の遺影に写っている少年は、屈託なく笑っていた。会ったこともない人だが、聡明な少年だと分かった。修理に来ていた時に聞いた電気屋さんの話は、どこか人ごとのように感じていたが、実際に写真を見た途端、少年の存在がリアリティを持って目の前に立ちあがってきた。
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