8人が本棚に入れています
本棚に追加
「この穴、何?」
掃除の時に、同じ班の中島さんに聞いてみた。
前々から不思議に思っていた教室の後ろの床に空いた穴。
そこそこ大きくて、上からベニヤをうちつけてあるが
大きさが合わなくて隙間だらけだ。
「知らないの?」
「知らない」
「焚火の跡よ」
「焚火?」
「何年か前に生徒が授業中に、教室の床を勝手に燃やして焚火したんだって。学校は大騒ぎだったみたいよ」
「へえ」
私はしゃがんでベニヤの隙間から、穴の底を覗いてみた。
コンクリートと砂粒が見えた。
「寒かったのかな」ぼそっとつぶやいた。
後ろでは中島さんが、男子全員帰っちゃうなんて、サイアク~と叫んでいた。
「あっ。渡辺さん、私、今日、塾だった」
中島さんは突然そう言うと、私をじっと見た。
「ごめ~ん。どうしても帰らなきゃ」
ふむ。手を合わせて頭を下げたナカジマさんの髪が揺れていた。
「あと机、もとに戻すだけだから……ごめんね。渡辺さん」
中島さんは、鞄をつかむとバタバタと教室を走り出ていった。
目を上げると、教室の隅で花瓶の花がしおれかけているのが見えた。
「水、替えとこうかな」と私はつぶやいた。
最初のコメントを投稿しよう!