朝焼け 

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金岡さんへのいじめは、薄闇がひたひたとまとわりつくように始まった。 テレビドラマのように、暴力がふるわれたり、物が隠されたりするようなことはなかったけど、ある日突然、意味もなく始まりいつ終わるともしれなかった。 まこちゃん、と呼ばれていた金岡さんは、カナオカさんと呼ばれるようになった。音楽室や体育の移動のときに、いつもつるんでいた女子たちは、金岡さんの目を盗むように先に行ってしまうようになった。 「いつも綺麗でお洒落な金岡さん」は、薄く埃をかぶったように精彩を欠いていった。 一人で机に座っている金岡さんのすぐ隣で、木村さんたちが、大声で笑い転げていた。時折、金岡さんをわざとらしく指差してみたり、軽蔑したような視線をなげかけた。うつむいた金岡さんの頬から耳がさっと赤くなると、木村さんたちは、ますます嬉しそうに大声で笑った。 みんな、気付かないふりをしていた。金岡さんに何の非もないことを。
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