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「おい、俺だよ、俺」
俺は、公園のベンチでボケーっと座っている、七十代くらいかと思われる男に声をかけた。
「ん? ああ、あああ……」
男がとぼけた声でそう答える。
面と向かってのオレオレ詐欺は初めての試みであり、随分荒手な気がするが、きっとこの何も考えてなさそうな男が相手なら大丈夫だろう。
「だから俺だって」
「ん? ああ、いたなあ、オレって奴」
「オレって奴?」
予想と違う言葉が返ってきたため、俺は思わずオウム返ししてしまった。
「ああ、子どもの頃、よくオレと遊んだなあ、久しぶりだなあ、オレ」
言っていることがよく分からないが、男は俺を、『オレ』という子どもの頃の友達だと勘違いしているらしい。
「あ、ああ、久しぶり」
子どもの頃の友達だとしたらどう見ても年齢差がありすぎるが、少しくらい無茶してもバレないはずだ。オレという人だということにしよう。
そう思ったのも束の間、あまりにも俺とオレが違いすぎるらしく、俺は男から怒涛の質問責めを喰らった。
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