Episode1

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 置き去りにしていた荷物やグラフルの肉や毛皮などを回収し、ようやく森を出て町を目指し始めた。こんななりでは荷物は持てるはずもなく、ルージュとラスキャブには少々力仕事を任せることになってしまっていた。  その頃にはすでに日が沈み、満天の星空が世界を支配している。  狼の姿では火の魔法は使えなかったのだが、フォルポスの姿でいるよりも五感が利くようで歩く分には全く困らなかった。  道すがらルージュは妖精から加護を受けたことを教えてくれた。 「なるほど。『触れられないモノに触れることができる』と『見たものの名前がわかる』という力か」 「お蔭でそこの奴を捕まえることができた訳だ。感謝しなければなるまい」  ルージュは檻の中の小さな魔物を指差して言った。 「そう言えば、名前はなんていうんだ?」 「・・・」  ふくれっ面のまま、口を聞こうとはしてくれない。オレはチラリとラスキャブを見た。 「アーコさんって言うそうです」 「へえ、名前は可愛らしいんだな」 「っけ」  普段なら絶対に口にしない様な台詞が躊躇いなく出てきてしまう。それが自分でもおかしく、楽しいとも感じてしまう。尤も後ろを歩く二人には不評のようだが。 「狼の姿に変えられるとき、別の魔法も使っていたよな? 自分でも戸惑うくらい心持が変わっているのは、その魔法のせいなのか?」 「俺が使ったのは、変身術とお前の手綱を握ろうとかけた支配魔法だけだ。支配魔法の方はあっちの恐い女に無理矢理解除されたがな。内面を変えてしまうほどの魔法なんてそうそう使えるもんじゃない」 「じゃあ、この感覚はオレ本来のものなのか・・・」 「狼になった分、余計なたがが外れてんだろ」 「なるほどな」  それから街の門の手前まで辿り着くと、一旦ルージュとラスキャブと別れることにした。二人は通行証があるから難なく通れるとは言え、流石に狼を街に連れ込むことは許されないだろうと判断したからだ。  オレとアーコが二人きりになることにルージュは苦言を呈してきて、アーコと口論になりかけた。けれどもオレが、 「妬いてくれるのか?」  と言うと、アーコがしたり顔で乗ってくる。 「そういうことか、気が付かなくて悪かった。けど安心してくれ。こいつは俺のタイプじゃない」  ルージュは困ったような腹立たしいような、それでいて寂しいような、そんな顔になった。とうとう諦めて「もういい…」と手で追っ払うようなことをしたので、オレ達も壁沿いに回り、入れそうな場所を探すことにする。 「・・・やはり殺しておくべきだった」  去り際に放ったルージュの一言はオレ達には届かなかった。
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