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扉が開くと囚人たちは全員が期待と不安を孕んだ視線をこちらに向けてきた。しかし、オレ達が一緒に入ってきたことで、聡い奴は早くもホッとしたような表情になる。
すかさずジェルデがその巨体についた太い二の腕を広げながら、威風堂々と咆哮するような声を出した。
「同士諸君! 話し合いはまとまった。これよりこのジェルデはこちらにいるズィアル殿と共にルーノズア奪還のために戦う! どうかもう一度、力を貸してほしい!」
ジェルデの声明の後、少しだけ静寂が訪れた。まるでこの部屋全体がジェルデの声を染み込ませ、言葉の意味を吟味しているかのようだった。だが、それはまさに嵐の前の静けさだった。
牢獄に捕らわれていた囚人たちは、その静寂を吹き飛ばすと言わんばかりに鬨の声を上げてジェルデへの返答とした。
一瞬、この騒乱がきっかけで敵に気が付かれはしないかと思ったが、士気を下げるよりはマシだ。ここまで来たらあとは運と時間とに身を任せるほかない。オレはすぐに全員に牢を解放するように指示を出した。
◇
やがて全員の解放が終わり、部屋に備え付けてあった武具をつけると順々に隣の部屋へと集まり始めた。流石は危険視を受け捕まっていた者達と思ったのは、誰一人として浮足立っていないところだ。すでに全員が解放の喜びよりも戦いの緊張感を心に満たしていた。
本来なら指揮官などをやる器ではないが、ここの成り行き上は致し方ない。オレが立たねば誰が立つのだ、という状況になってしまっているから。
「オレの名前はズィアル。見ての通り魔族だが、故あって魔王を討つために貴君らを解放した。しかし魔族であるオレの言葉をどれほど信用できるかわからん。だからこそ本心と目的を伝えておきたい」
すぐ脇にいたジェルデとトマスの視線がこちらに向くのが分かった。内心は何を言い出すのかとハラハラしている事だろう。
「勘の働いているモノなら気が付いているかも知れないが、魔族によって陥落された港はルーノズアだけではない。少なくともダブデチカは奴らの手に落ちている。他の港町もすでに制圧されている可能性は高い。つまりは奴の居城のある『螺旋の大地』へ向かう手段が断たれている。単刀直入に言って、オレ達の目的はルーノズアの奪還ではない。この街に混乱を引き起こし、それに乗じた上で船を調達し『螺旋の大地』を目指す。魔王が『囲む大地』の侵略に執心している今こそが、反対に奴の拠点を叩く絶好の機会。枝葉こそ違えども魔王を殺すという根本の目的は同じ。貴君らの力を魔王討伐の足掛かりにしたい」
そこまで立て板に水でまくし立てて、オレは息を吸った。
「改めて言う。オレ達に力を貸してほしい」
すると間髪入れずにジェルデが右手の拳を固く握り、それを真上に突き立てた。それに倣って一人、また一人と同じ動作を繰り返す。
そして全員が拳を上げたタイミングでトマスがオレに教えてくれた。
「これがルーノズアの戦士たちの誓いの儀式だそうですよ」
彼女がそう言うという事は、きっと囚われの身になる前にオレと同じような経験をしたからだろうと察した。
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