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全員の視線がつかつかとこちらに歩み寄ってくる十五、六の小娘へと集中した。実際はここにいる誰よりも年上だが。
「もう一個。肝心なことを決めておいた方がいい」
「一体何を?」
このオレ自身も何を見落としているのか、まるで分からない。
アーコはピンっと人差し指を突き出してジェルデ達を差した。いつものふざけた様な様子はまるでなく、至って真剣な眼差しだ。
「お前らの仲間が歯向かって来たらどうする? 殺せるか?」
「…それは魔王側へ篭絡されているという事か? それとも人質として扱われた場合の判断か?」
「ま、勿論そういう奴だって0じゃないだろうけどさ…魔族に変えられた『囲む大地の者』のことだよ」
各々が騒めきながらアーコの言葉の意味を考えた。
「魔族に変えられるとは、どういう事ですか?」
しまった。その事について言及するのを失念していた。
オレにとっては向かってくる者は誰であっても敵だし、ここの住人との繋がりは無いに等しい。だがこいつらは違う。ひょっとすれば肉親や友人を手に賭けなけばならない可能性だって大いにあり得る。それは場合によれば剣を鈍らせるかもしれない。
アーコは自分たちが記憶を読み取る能力を有している事を上手く伏せながらも、魔王の企みを言って聞かせた。『囲む大地の者』達は皆、一様に渋い顔つきになっていく。それは当然の反応だろう。
「…にわかには信じられんが、そんな事が可能なのか?」
「魔王だったら、その術式を開発することはできるだろうな」
「…」
とは言えども、ルージュとアーコの能力を知らない連中にとっては半信半疑な内容であることも事実だ。下手な混乱を与えてしまっただろうか…。
その時、今度はルージュの方が声を出した。
「悪い意味で丁度良かったな」
「え?」
ルージュはそう言って、オレ達が会議をするために囲んでいたテーブルの上に紙の束を放り投げてきた。
「ここは、その魔族への変成魔術の研究も行われていたらしい。膨大な魔力が必要な方法から、より効率的な式に改良するためにな…そこに研究成果や結果が書いてある。見る前に一つ言っておくが、貴様ら『囲む大地の者』にとっては気分を害する事しか書いておらんぞ。ルーノズアの住民であるなら、尚更な」
そう忠告は有っても、皆の手は止まることはなかった。
次々に紙の資料が回されて、捲られていく。そうしている内に一人、また一人と拳を固く握りしめ、ワナワナと震えはじめた。それだけでオレはどういう事が書かれていたのかを直感的に悟ったのだった。
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