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町民たちはジェルデの鼓舞に見事なまでに感化されていた。近くの者は戦士たちが倒した魔族の武器を奪ったり、登録印を作る時に使用していた工具を構えたりと、とにかく自分も戦うという姿勢を見せる。
誰かが発した勇気は伝染病のように蔓延し、今までの鬱憤を起爆剤にして爆発した。
魔族も暴動を鎮圧させるために動き出し、最初の数人を持っていた武器で切りつけもしたが焼け石に水だ。普段なら血を見せていただけで竦みあがっていたであろう一介の町民も興奮しきっている。きっと切られた痛みを感じてすらいないだろう。
闘気が満ちるのは嬉しいことだが、些かオレの予想よりもそれが早かった。こうなると少々まずいかもしれない。自分たちだけでは勝ち目なしと判断した魔族たちが諦めてしまうからだ。少しでも持ちこたえる気概を見せてくれれば、その分逃走が遅くなり情報の伝達や援軍も遅らせられる…が、それは望みすぎかもしれない。
思った通り、オレ達が突入してきたドアと反対側にいて未だ距離を詰められ切れない場所いた魔族たちは戦意を喪失して散り散りに逃散し始めた。なるべく一人でも多く仕留めておかなければ…。
こういう場面で一番頼りになったのは、やはりピオンスコだった。迷彩、二刀流、そして毒針。着実に急所を狙い、一撃で一人を確実に殺している。アーコの魔法で体格が大きくなっている分、リーチも伸びていて暗殺においては他の追随を許さない程の精度を見せつけている。俺とルージュも苦戦こそしていないが、そもそもの戦闘スタイルが混戦や多人数に対して有利とはいえない。こういう時、オレ達は魔法に頼って全てを吹き飛ばすが、敵味方が入り乱れている状況ではそれもできない。
そしてラスキャブはピオンスコの軌道をなぞるように移動して、彼女が仕留めた魔族の死体に術を施している。相手の敵数をマイナスにできるだけでなく、こちらの陣営に加算できるというのは思いの外、心強さができやすい。驚いたのはラスキャブにはそんな指示を出していなかった事だ。つまりラスキャブは自分の力をどう使えば、仲間が助かるかを自分で考えている。これは大きい進歩だ。『螺旋の大地』の試練を受ける為には、オレの指示だけで行動していては解決できないこともままある。ラスキャブの成長は、パーティのレベルの底上げにもつながる。
「ギャアアアッッッ！！！」
その時、この世の物とは思えない悲鳴がこだました。
声の方向を見ると、一人の魔族が巨大なイナゴにバリバリと身体を齧られていた。あまりの光景に魔族は勿論のこと「囲む大地の者」さえも陰惨な表情を浮かべている。
イナゴと巨大化。
この二つを結びつけるのはオレにとっては非常に簡単な事だった。
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