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扉の焦げたきな臭さと、木片が突き刺さったことで出た血の匂いが濃く伝わってきた。
決して静かな訳ではないのにパチパチと扉が焼ける音が馬鹿によく聞こえる。
そして無惨に破壊された扉の奥から、槍を持った魔族がのっそりと現れたのだ。いや、魔族かどうかは何となくそう思っただけ。魔族か『囲む大地の者』か、はたまた男か女なのかさえも分からない。そいつはコート姿に手袋をはめ、目出し頭巾を被っていたからだ。
そいつは更に声も出せないのか、引き連れてきた二人の部下にハンドサインだけで指示を飛ばしている。指示を出された二人は武器を構え、暴動を鎮圧しようと『囲む大地の者』に攻撃を開始した。
頭巾の男は一番近くにいたラスキャブとピオンスコに歩み寄り、槍を構えた。
二人はきっと覚悟を決めたことだろう。しかし突如として頭巾の男は動きを止めた。オレが明確な殺気を飛ばしたからだ。事実、ラスキャブとピオンスコに槍を突き出していたら、その隙をついて致命傷を与えられた。
大きく飛び退き、頭巾の男は軽快しながら槍を構え直した。オレを最優先で排除すべき敵だと認識してくれたようだった。
奴の動きが一度制止した事で、呆気に取られていた魔族たちに状況を理解する間が生まれた。すると安堵からか、歓声を上げ喜んだ。
「ベヘン様!」
「ベヘン様が来てくれたぞ」
魔族たちは口々に目出し頭巾の名を叫び、賛美し始める。どいつもこいつもさっきまでは道に迷った子供のような悲壮感と絶望感に支配されていたはずなのに、息を吹き返し気概を見せてくる。
このベヘンとやらはそこまでのカリスマ性を持った魔族という事だろう。
相手にとって不足はない。こんな状況でも嬉しさが出てくるのは戦士の性だ。不謹慎と咎められるのも分かるが、自分では感情の発生を抑えられないのだから仕方がない。
ベヘンは深く腰を落とし、槍の切っ先の照準をオレの喉へと合わせた。頭巾の隙間からまるで生気もなく焦点も定まらない二つの眼球だけが小刻みに動いている。
「ジェルデッ! さっさと皆を率いて地上へ出ろ。この三人組はオレ達が止める」
各々の反応が目の端に入ってくる。オレももうベヘンから視線を逸らすわけには行かなかった。
ジェルデとトマスはオレの意図を汲んでくれたようですぐに強行突破の姿勢を見せた。ともすれば後はこいつらから逃げおおせる隙を作らなけばならない。三人をうまく相手取るためには……。
「全員、今組んでいるコンビで左右の奴らを止めてくれ。ベヘンとかいう奴は、オレが殺す」
オレの命令でパーティの全員が戦闘態勢を取る。
それを合図にしたのか、それとも偶々かみ合っただけなのかは分からぬがベヘンがオレに向かって飛び掛かってきた。
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