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だがそれをオレが発する前にルージュが指摘した。
(主よ。まさか魔族の姿を取っているのが起因しているのではないか?)
(ああ。オレも正にそれを思っていたところだ)
アーコの魔法の力を借りて、オレは自分を三つの姿に変化させる能力を得ている。
生まれながらのフォルポス族の姿、呪いによって変えられた狼そのものの姿。
そして、ひょんな思い付きで変えてもらった魔族としての姿だ。
姿を変えた時に性格や内面的な変化が出るのはすでに確証済み。ともすれば、筋力などの体感的な事柄にも変化が起こるとしても何ら不思議ではない。狼の姿は骨格からして別の生き物と言って差し支えなかった。身体能力に変化が生まれるのは、むしろ当然の結果。
だが、フォルポス族と魔族の姿はかなり似通っている部分も多い。だからこそ通常通りの感覚で戦えるだろうと錯覚してしまったのだ。
どこに誰の目があるのか分からない状況で、オレ達の情報が魔王たちに漏洩することを恐れて変身を試みていたのだが…それが仇になってしまった。まさかこんな落とし穴があったとは。
こうなっては情報漏洩がどうのと言っている余裕はない。素性がばれようが、命を落とすよりもずっとマシだ。変身を解くしかない。
そう思った矢先、ベヘンが大きく飛び退いた。狭い通路では突き以外の攻撃が困難な槍では不利と思ったのか、それともこちらに何か策があると深読みしたのかは分からない。だがその判断は彼にとっては正解だろう。
後ろに飛び退く瞬間にベヘンは槍の先に魔力を集中させるのを見た。着地と同時に力強く踏み込むと、槍から魔法を放射する。それは瞬く間に炎でできた十数本の矢になって縦横無尽に蛇行しながらオレを襲う。棚に阻まれたせいで逃げ道を失っているオレには受ける以外の選択が取れない。
炎の矢に襲われる最中、オレは時間と空気の流れが極端に遅くなったように感じた。
この感覚は戦いに身を置くものなら大抵の者が経験した事があるという。しばしば起こる実際の時間とそれを感じ取る器官が矛盾しているかのような認識の阻害。そして、それと反比例するかのように思考は速く研ぎ澄まされていく。
これは覚悟の時間だと思っていた。
生きるにしても死ぬにしても、決意と後悔をせめぎ合わせる時間だと。
…。
ところが。
姿が変わってもオレ自身の根幹にある何かは、相変わらずの姿のままで居座り続けていた。無意識にルージュを握っていた右手に力が入る。するとまるで操り人形のように勝手に腕が動いたような気がした。
急ごしらえで魔力を練り上げると、それを突き出したルージュの刀身から放つ。
その魔力の波動に当てられると、オレに襲い掛からんとしていた炎の矢が不自然な程、歪曲した。そしてそのまま術師本人であるベヘンの元に戻るかのように矢じりの向きを変えたのだった。
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