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炎の矢が反射されてベヘンを襲う。
その事には反撃されたベヘンも、反撃した張本人であるオレ自身も驚いてしまった。
ベヘンは俺とは違い開けた場所にいたので、一瞬の驚きを見せたものの難なく自らの魔法を回避した。そして空振りした炎の矢は床に激突すると爆音と共に噴煙を巻き上げたのだった。お蔭で互いに視界が悪くなり、戦闘が一時中断された。
その隙にオレはすぐさまルージュと、今しがた起こったことの分析を始めた。
「ルージュ、今のを見ていたか?」
ある種の興奮状態に陥っていたオレはテレパシーを噛ませる余裕もなく、言葉を投げかけていた。が、すぐに相手に位置を悟られまいと自分を戒めた。
(ああ。今のは紛れもなく『反転』だった)
(まさかとは思うがお前の仕業か)
(いや違う、私は何もしていない。というか反転は私もできない技だ)
(…そうか)
◇
この世界には魔法そのものに影響を与える魔法技巧というものがあり、それは大きく三つの段階に分けられている。
レベルの低いモノから、『変更』、『反転』、『支配』とそれぞれ名がついている…はずだ。
はず、などと曖昧な言い方になるのも仕方がない。それほどまでに希少な技巧なのだから。
そして。
今、オレがやってのけたのはその内で中位に属する『反転』と呼ばれる技巧だった。魔力の流れやその発生源と到達点、もしくは火や水といった性質などをほぼ100%に近い精度で読み切り、その向きを文字通り反転させる。
口で言うだけなら簡単だが、実際はとてつもなく難しい芸当だ。魔法技巧の最下位の「変更」という魔法の流れをずらす技だけでも大魔術師と呼ばれているような魔法使いがようやく扱えると言われており、『反転』はオレも生涯で一度しか見た事がない。その上『支配』に至っては理論のみが先走っているだけで実現は不可能とまで言われている。
◇
そんな常識外れの大技を自分がやってのけた事に、未だに実感がわかない。剣の腕前で言えば大抵の奴には引けを取らないという自信と自負はあるモノの、魔法に関してはからっきしだ。
事実、かつてのパーティの中でもオレは一番魔法の扱いが下手だった。だからこそ腕っぷしと戦いの機転を磨いていたのだから。
だが、今はそんな現実離れした現実でも受け入れなければならない。
オレは深く息を吸った。頭の中は興奮と冷静とが同居する摩訶不思議な感覚が漂っていた。その中でオレは今の「魔族としての自分」に向き合ってみることにした。普段であれば一番苦手である魔法を駆使した戦闘方法のアイデアが溢れてくる。
そしてその全てが自分の力で実現できるという、根拠のない自信も同時に沸いて出ていた。
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