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オレは退避した分の道を全力で駆けて出口付近で戦っている二組の元に急いでいた。ベヘンの強さから察するに、あの取り巻きの二人も侮れない実力を持っているように思える。アーコ以外には些か荷の重い相手になるかも知れない。
走りながら全体をうっすらと見回す。
魔族たちはベヘンたちに感化されて士気を取り戻し、暴動の鎮圧に動いているものの指示をする者がいないせいでまともな連携はまるで取れていない。反乱軍にいいように弄ばれて更に戦線が乱れている。
その隙を突くかのようにジェルデは軍勢を当初とは違うルートで脱出させる算段のようだ。
予定していたルートは今、オレのパーティとベヘンの部下たちの戦場と化しているのだから当然の選択だろう。当人たちだけならいざ知らず、町民にあの戦いの流れ弾をよけながら進めと言うのは酷すぎる。
ともすれば早いところ驚異を除去して再び先陣と殿とを警戒しなくてはならない。ベヘン程の実力者はもういないと願いたいが、希望的な観測だけで進軍はやりにくい。
あれこれ状況を整理してみても結局、オレがやることは戦う事だけだ。が、多少頭はすっきりした。
けれどもオレの意気は不発に終わってしまった。それどころか、気が付けば目の前で繰り広げられている戦いに思わず目を奪われていた。
◇
時間は少し遡る。
ザートレがルージュの本質に気が付いてベヘンを氷漬けにしていた頃。アーコとタッグを組んでいたトスクルが、戦いの最中に一つ提案をしていたのだ。
「アーコさん、一つお願いがあるんですが」
「あん? どうした?」
「あの二人の相手は私達に任せてほしいんです」
「私達って…お前とラスキャブとピオンスコにって事か?」
「はい」
そう言われてアーコは戸惑った。敵の実力は中々なモノで、正直ラスキャブ達は苦戦を強いられるだろうと思っていた。その上に以前、洗脳されているトスクルと接触した際にラスキャブとピオンスコは敵に付け入られてしまって、危機的な状況に立たされていたこともある。アーコが躊躇するには十分すぎる理由だった。
けれど、その時の事を覚えているのかいないのか、トスクルは平然として言う。
「多分、私もラスキャブもピオンスコも、あの人達に勝てません。実力的に無理です」
じゃあどうするつもりだよ、という言葉をアーコは飲み込んだ。それよりも早くトスクルが二の句を告げたからだった。
「けど、私とラスキャブとピオンスコの三人でなら勝てます。しかも余裕で」
真顔でありながら自信たっぷりにトスクルは宣言した。そこまで断言されると、アーコの中で心配よりも興味が勝ってしまった。そしてアーコにとって興味より先んじる感情はないのだった。
「面白れぇ。そこまで言うならやって見な」
するとトスクルはニヤリと目は笑わずに口角だけを上げて答えた。
「わかりました。ただ昔の様にはいかないと思うので、テレパシーだけは切らないでおいてください。それと万が一の時はフォローも」
「任しておきな」
アーコは自分たちの乗っていたイナゴの巨大化呪文を解除した。トスクルはすぐに背中に生えているイナゴの翅を広げると近くの壁を蹴り、思い切り跳躍した。それはひとっ跳びで遠く離れたラスキャブとピオンスコのもとに届いた。
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