Episode4

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 珍しく大きな声で二人を一喝したラスキャブは槍を強く握りしめると、これまた珍しく先陣を切った。が、それもすぐに二人に追いつかれてしまう。 「怒らないでよ、ラスキャブー」 「そうそう。三人で戦おうって言ったばかりでしょ」 「むー」  トスクルは膨れるラスキャブを無視して、自分の作戦を伝えた。といってもトスクルが提案したのは三人の陣形だ。それは、それぞれの強みを最大限に活かすために、「螺旋の大地」にいた頃からずっと使い続けている戦い方。 「いい? 私達の攻めの基本は誰がどう考えたってピオンスコなんだから、ピオンスコが戦いやすいように徹底的にフォローするの」 「ど、どうやって?」  流石におしゃべりが過ぎたのか、三人の下には敵が大挙仕掛けている。ラスキャブは今更ながらに焦りを見せた。 「まず、基本はラスキャブが先頭。ただし敵を倒さなくていいの、できるだけ注目を引き付けて、真後ろのピオンスコがトドメを刺す。それを徹底して」 「わかった…」 「オッケー」 「うん。ほら! くるよ」  ラスキャブとピオンスコはすぐさま戦闘態勢を取る。トスクルは後方に飛び退くとそのまま浮かび上がってポジションをキープした。飛行とまではいかないが、その場で短時間だけ浮遊し続けることくらいならできる。こうして視野を広げ、戦闘力で見劣りする自分の活躍の場を作ったのだ。  トスクルは二人前にいる二人と比べて単純な戦闘力で大きく劣ると自負している。ラスキャブのような驚異的な防御力もないし、屍術のような特技もない。ピオンスコのように素早さも一撃必殺の隠し玉も持っていない。だがその分、二人よりは頭の回転が速いという自負も持っていた。  トスクルの指示通り、ラスキャブは敵の撃破というよりも体勢を崩したりチームを分断させるような槍の振るい方を工夫していた。作った隙は小さく、立て直しも容易なものだったが、それはピオンスコのポテンシャルが埋め合わせてくれた。ザートレに仕込まれたミラーコートでの戦術は瞬く間に死体の山を作って行く。  しかし、それでも数の不利は簡単には覆らなかった。  数人の魔族がピオンスコの脇を抜け、あからさまに戦術で劣るラスキャブを狙い撃ちにしてきた。けれどもそれを見ていたピオンスコもトスクルも決して焦らない。ただの鋼鉄製の武器での攻撃程度ではラスキャブの肌を傷つけることは出来ないと知っているからだ。  むしろ肝心のラスキャブの方がボキボキと折れる敵の武器の音に混じって、ひゃあひゃあと悲鳴を上げていたのである。
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