Episode4

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「「ピオンスコ!!」」  思わずラスキャブとトスクルの声が重なった。ピオンスコは雷にはもちろん気が付いているものの身体の反応が絶妙に追いつかないと言った様子だった。  避けられない…。  他ならぬピオンスコがそう確信し、覚悟を決めた。その時だった。ピオンスコは自分の体に誰が触れてきたことを感じ取った。だが雷に目を奪われ、それが誰なのかまでは分からない。ただ何とも心が暖かくなる気配だと、暢気な気持ちになるほどの安心感のある感触だった。  その安心感は雷に対する恐怖心を見事に打ち消した。ほんの一瞬だけの事だったが、自分に襲い掛かる雷が味方になってくれたような気さえしたのである。  事実、ピオンスコの身体に直撃した雷はその全てが無作為に跳ね返り、辺りにいた敵たちに拡散してしまったのだ。魔法が収まるとピオンスコの目に二つの光景が飛び込んできた。  一つは雷によって全滅した敵たちの姿。  そしてもう一つは心配した様子をまるで隠さずに駆け寄ってくるラスキャブとトスクルの姿だった。二人に抱きしめられてようやく彼女の頭は自分たちが勝ったことと、自分が無事だったこととを理解した。  すると今更ながら腰が砕けて立っているのもままならなくなってしまった。それでも立っていられるのは二人に抱きしめられているからじゃない。自分の背中をしっかりと支えられてくれている人がいるからだった。  首が回らなかったので、上を見るように自分の背後を確かめた。  そこには、よくやったと言わんばかりの微笑みを携えた、ザートレもといズィアルが立っていたのである。ズィアルは剣を逆手に持ち替えると三人をまとめて抱え込んだ。 「無事でよかった。それにしてもいい戦いっぷりだ、三人とも」  ピオンスコは、そこで「へへへ」と笑えるような余裕を取り戻す。 「今、ズィアルさんが助けてくれたの?」 「まあな。正確に言えば俺とお前で敵を倒したってことだが」 「アタシも? え? どういうこと」 「いつか話してやったことがなかったか? お前の着ている『ミラーコート』って装備は迷彩ができるほかに、使い方によっては飛んでくる魔法を跳ね返すこともできる、ってな。もっともその使い方はかなりの魔法訓練が必要だがな」  そう言えば、このミラーコートを買ってもらった時にそんな事を言われていた様な事がなかったとも言い切れないと思う? といったような曖昧な記憶が滲み出てきた。  しかし、そんなことよりもズィアルと協力してでも敵の撃破に一役買えた事実だけで、彼女を喜ばせるには十分な理由だった。
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